徐々に近付いてくるヨシタケくんに私は覚悟を決め、目をギュッと瞑る。鼻と鼻がくっつくと私の心臓はこれでもかと言うくらい速くなった。



「ちょーっと待ったぁあ!!」
「「!」」



いきなり大きな声をあげる誰かに、肩がビクッと跳ね目を開く。目の前にいるヨシタケくんはその大きな声をあげた方を振り返っていて、私も慌ててその大きな声をあげた人のほうへ顔を向けた。



「なーにやってんの、こんなところで」
「お、お前は…」
「か…会長…」



会長?どこの会長だろうか。
大きな声を出した犯人は、金髪でいかにもチャラそうな顔をした(ヨシタケくんも金髪だがこの子はまだ幼い気がする)会長と呼ばれる男だった。その会長と呼ばれた人はヨシタケくんたちと同じ制服を着ている。
呆然とする私を余所に、ヨシタケくんはハァ、と安堵の息のようなものを吐き出した。



「最初から見てたけど、まさかこんなことになるなんてね」
「は?!いや最初から見てたなら助けてくださいよ!」
「いやーどうなるかなぁとワクワクしてて忘れてた」



ははは、と悪びれることなく笑う会長さんに私は盛大に溜め息をつく。会長さんの登場にその場にいた男子生徒たちは気まずい表情をして、ここから立ち去ろうと後退りしていた。



「おっと、逃がさ」
「そこまでだ!」



会長さんの声を遮ったのは聞いたことのある声で、ギャラリーを避けて出てきたのはモトハルくんと帽子を被った男の子と色黒で金髪の男の子だった。その面子を見てあれ?と首を傾げる。どこかで見たことあるような。



「モトハル!唐沢!副会長!」
「大丈夫か、ヨシタケ、みょうじさん………え?会長もいたんスか?」
「……あぁ、いたよ…いましたよ…」



折角良いところを見せようとしたのに遮られたからか落ち込む会長さんを、モトハルくんたちは何を落ち込んでるのかと眉をしかめる。そんなやり取りを呆然と見ていると、男子生徒たちはギャラリーを掻き分けて逃げようとしていた。



「おいコラ、逃がさねぇぞ」
「ひっ…」
「後は生徒会室で話を聞く。まぁ、明らかにお前たちが悪いのは目に見えているがな」



男子生徒たちの前を色黒で金髪の男の子が立ち塞ぎ、その男子生徒たちの逃げ場を無くすように後ろに帽子を被った男の子が立ちはだかる。男子生徒たちは顔を真っ青にさせて、そして観念したのか肩をガックリと落とし項垂れた。



「会長はいつからいたんすか」
「この人最初から居たってよ」
「マジで?会長…最初から居たならなんで助けなかったんスか…」



その一方ではヨシタケくんとモトハルくんが呆れたように会長さんを尋問していた。会長さんは冷や汗を垂らして顔を引きつらせている。



「いや、助けようとは思ったんだ!助けようとしたらヨシタケに遮られて」
「あんた、さっきどうなるかなぁってワクワクしてて忘れてたとか言ってたじゃないッスか」
「…会長………」
「い、いや違うんだ!これはだな、その」



弁解しようとする会長さんにモトハルくんは額を押さえて、話は生徒会室で聞くんで、と言って会長さんの傘を奪い引き摺って行く。引き摺られていく会長さんと会長さんを連れていくモトハルくんに、私は慌てて駆け寄った。



「あの!」
「!」
「あ、ありがとうございました」



モトハルくんと会長さんを交互に見て、深くお辞儀をする。
会長さんも最初から見ていたけど一応助けようとしてくれた人だ。会長さんがあそこで止めてくれなければ、ヨシタケくんとキスをしていたかもしれない。モトハルくんもタイミングの良い時に来てくれて(会長さんにとっては悪かったかもしれないが)凄く助かった。あとあの帽子を被った男の子と色黒で金髪の男の子にもお礼を伝えておいてくれと言うと、モトハルくんはわかりました、と目を細めて笑った。

そんな私に会長さんはフッと笑って口を開く。



「まっ、これからは気を付けてくださいねー。ここは女の子に目がない連中だらけなんだからさ」
「はい、肝に銘じます」
「あぁ、あとヨシタケー」
「!な、なんスか」



会長さんはそう言うと今度はヨシタケくんに話し掛ける。ヨシタケくんは目を丸くさせて会長さんを見つめた。会長さんはヨシタケくんと目が合うとパチンとウィンクをして、彼女大事にしなよー、と爽やかな表情で言い放った。
え、彼女って私のこと?



「は?」
「じゃ、俺ら行くわ。みょうじさん大事にしろよ」
「え?!ちょっと何言ってんのモトハルまで!?」



誤解だ、と言うヨシタケくんを余所に会長さんとモトハルくんは学校の中へと消えて行った。


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