車庫のところにチャリを置きバッグを肩にかける。弟くんは気まずそうに私を待っていてくれた。玄関まで案内してくれるんだろう。田中とは大違いで優しいなぁと思っていたが、それにしても警戒し過ぎではないだろうか。ビクビクしているのは私が怖いからかそれとも今から何かされると思っているからだろうか。
「弟くん」
「(ビクッ)な、なんすか」
「(めっちゃ怖がってるー!)あの、さ…名前…教えてくれないかな」
「え゙…」
明らかに嫌そうな顔をする弟くんに、私は申し訳なく思ってしまった。姉弟の間に首を突っ込むことはしないが、弟くんを不憫に思った。田中は暴力的なところもあるからきっと餌食になっているだろうな。弟くんもお姉さんと仲良くしたくないだろうし、お姉さんの友達とも仲良くしたくないだろうし、むしろ近付きたくないんだと思う。だが、私は近付くぞ。だんだん弟くんがかわいく見えてきたからね!
「よ…ヨシタケっす…」
「ヨシタケくんね。私はみょうじなまえ。今日泊まるからよろしく!」
「え゙…!」
ヨシタケくんは目をこれでもかと開き私の顔を凝視した。そんな嫌そうな顔しなくても…いくら私でも傷付くよ。そんなこと言えずにしばらく二人して固まっていると、玄関のほうから私の名前を呼ぶ田中の声がした。それで我に返った私はヨシタケくんにじゃあまた、と言い声のしたほうへと急いだ。
◇
ヤバイ。
ヨシタケはなまえが泊まるという言葉にすぐそう思った。モトハルの髭を顎ごと剃り落とした人の友達だということに、きっとあの人もそんな人なんだろうとビクビクしていた。どうしよう、そう思ったときヨシタケの頭の中に二人の人物が浮かび上がる。その二人の人物の一人、まずはヒデノリに電話するか、と思い立ったヨシタケは携帯片手に冷や汗をダラダラと流しながら電話帳を開く。携帯を持つ手は僅かに震えていた。
ヒデノリの電話番号を発信させ、携帯を耳にあてる。
──プルルルル、プルルルル
(頼む!頼むから出てくれヒデノリィイ!)
──プルルルル、プルルルル、プルルルル……ブッ
「!ヒデノリ!?もしも」
──お掛けになった電話番号は現在電波の届かな…
「…ッなんっでこんなときに繋がんねぇんだよぉお!」
ヨシタケは携帯を地面に叩きつけたい衝動にかられるが、やはり携帯がないと色々困るために我慢をする。ふとヨシタケは先ほど会っていたヒデノリとの会話を思い出した。
そういやあいつさっき電源無くなったとか言ってたっけ……。
気が遠くなるのを堪えて次はタダクニに電話しようとしたとき、そういえば前にあいつの家に泊まったときに妹に1ヵ月出禁を喰らったような…と思い出し、手を止めた。
(ヤバイ…これはもうゲームオーバーか!?)
携帯を握り締め、玄関を見つめるヨシタケに他の人物を頼るという手段は頭の中から消えていた。