何を言い出すのかと思ったらそれはとんでもないことだった。キス、というのは唇と唇をくっつける行為、所謂接吻。お互い好意を寄せ合っている恋人同士がする行為だ。確かに彼氏彼女という設定に仕立てあげたのは他でもない自分だが、まさかそんなことを要求されるなんて思わなかった。
みょうじさんはどう思っているのだろう。
ふとそう思った俺はみょうじさんに視線を移すと、偶然なのかみょうじさんも俺を見ていてバッチリ目が合ってしまった。すぐそらされたけど。

この状況は今まで生きてきた中でも1、2を争うくらいヤバい状態だ。みょうじさんを巻き込んで申し訳ない気持ちが溢れ出てくる。この状況をどう突破すればいいのか、ない頭を必死に働かせるが今までの茶番劇とは違うため、正直本当にわからなかった。
俺は助けを求めるようにコッソリヒデノリたちを見る。ヒデノリは誰かに電話していて、そして俺に気付いたタダクニが必死に口パクをしている。正直なんて言っているのかわからない。
小首を傾げてわからないのだと表現すると、タダクニは額に手を当てて盛大に溜め息をついた、気がした。



「………」
「………」



俺とみょうじさんの間に沈黙が流れる。そんな中俺はタダクニが言いたいことを必死に解読しようとしていた。



(オオアウ…?なんだ?オオアウって)



新手の暗号かなにかだろうか。それにしては意味不明すぎる。
未だわからない俺にタダクニはわかりやすく両手で髪の毛をあげてオールバックにした。若干目付きも細くなっている。それを見て俺はやっとピンときた。



(オオアウ…モトハルか!)



俺がピンときたのがわかったのかタダクニはパァと明るい顔になり、今度は学校を指をさしそしてここの場所を指をさした。俺が推測するに、ヒデノリが電話をしている相手はモトハルで、そのモトハルに助けを求めそしてもうすぐここに駆け付けてくれる、ということだろう。
それまで我慢しろ、ということか。
いつ来るかわからないがここは少し頑張ってみよう。



「…ソレしたらどっか行ってくれるんすか?」
「!ちょ…」



まずここで否定の言葉をしてはいけない。否定イコール彼氏彼女じゃないとこいつらは断定するだろうから。
俺がそう言うと男子生徒たちは余裕そうな顔をしていて、みょうじさんは慌てて俺を見上げた。



「ああ、俺らも人のもの取るほど落ちぶれちゃいねぇからな」
「……(嫌がってる女の子を連れていこうとしてる時点で落ちぶれてるだろ)」
「嫌がってる子を連れていこうとしてる時点で落ちぶれてるだろ」



いかにも悪党みたいな台詞を言うもんだからつい突っ込みを入れてしまい、あ、と気付いたときにはもう遅かった。男子生徒たちは俺の突っ込みにイラッときたのか、一気に顔を険しくさせ早くしろよ、と催促してきた。
やべぇ、火に油を注いじまった、なんて柄にもなくそう思った俺はどうやら今日は頭が冴えてるらしい。
みょうじさんに身体を向けると、目を真ん丸にさせて呆然と見上げていた。



「ヨ、シタケくん…」
「…すみません、みょうじさん」



もしモトハルが来なかったら俺はどうすればいいんだろう。そう考えてひとつの答えが導かれる。
もし、もしも来なかったらその時はもう覚悟を決めみょうじさんとキスしよう。みょうじさんが嫌だと思ったらきっと突き飛ばすだろうし。
とりあえず俺はモトハルたちが来ると信じてみょうじさんに、もう少しの我慢ですから、と呟いた。意味がわからない、という表情をするみょうじさんを申し訳なく思いながらも時間を稼ぐようにゆっくりと顔を近付けるのだった。


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