気付いたときにはそう口走っていた。何言ってんだ俺。自分で自分を突っ込むが今はそんなことしている場合じゃない。

みょうじさんの声を聞いた途端何故か胸が高鳴った。まさかと呟き男子生徒たちの間に入ればそこには本当にみょうじさんがいて、しかも話を聞けばこないだあげた傘をわざわざ返しにここまで来てくれたらしい。
最初こそこの異様な状況を理解できていなかったが、みょうじさんの困った表情と男子生徒たちの表情を見てなんとか把握できた。一応男子生徒たちの顔を一通り確認してみたが、自分の学年では見たことないしこの図体からして3年の奴だろう。

厄介なことになってしまったと頭を抱えたくなるが、みょうじさんが自分のためにわざわざ傘を返しに来たせいで男子生徒に絡まれてしまったのかと思うと罪悪感が込み上げてくる。自分の通ってる高校だからこそだ。
何とかしたい、素直にそう思った。でも具体的にどうしたらいいんだろうか?こんなこと初めてだからどうしたらいいのかわからない。だからといって関係ないヒデノリたちを巻き込むのだけは避けたい。
そんなことを考えながらみょうじさんを見つめて名前を呟く。するとみょうじさんはスッと傘を目の前に差し出してこの間の傘ですと傘を渡され、えっ、と声をあげて反射的に受け取ってしまった。



「この間は本当にありがとう」
「ど、どういたしまして」
「じゃあ、迷惑かけるわけにもいかないし」



お礼を言われ何とかどういたしましてと返す。みょうじさんは俺が傘を受け取ったのを確認すると、またね、と苦笑するもんだから思わず眉を寄せた。
ここでみょうじさんが連れていかれるのを見過ごすわけにはいかない。そう思った俺は歩き出そうとするみょうじさんの腕を掴んだ。みょうじさんは驚いて俺に振り返る。



「えっ」
「すんません、俺まだこの人に用があるんで」



こう言うしかなかった。これで男子生徒たちがずらかってくれるかと思いきや、意味わかんねーみたいな顔をして言い返してきた。



「は?もう用事終わったんじゃねぇの?」
「おいおい、弟くんさ。彼氏じゃねぇんだから、そんな用事後でもいいだろ?」



なんだよそれ、なんでこいつらこんなにしぶといんだよ。そう思ったのはどうやら俺だけではなさそうで、顔を引きつらせているみょうじさんが目に入った。こうなった原因は俺のせいだ。俺が助けなくてどうする。それにここで引いたら男が廃る、そう思わずにはいられなかった。
もしも自分が本当に彼氏だったらこの人たちは諦めてくれるのだろうか。そんなことをふと思いたった俺は気付いたら変なことを口走っていた。(冒頭)



「彼氏ですけど」
「…は?」
「…へ?」
「この人の彼氏。俺が」
「………」
「………」



男子生徒たちは目を点にさせて俺を凝視する。みょうじさんも一緒になって目を点にさせて見つめてきた。だから俺は合わせろという意味をこめてみょうじさんを見つめ返す。しかしみょうじさんはできるわけないだろというような顔をしていた。
確かにみょうじさんや男子生徒たちがそんな顔になるのはわかる。だがこうでもしなければきっとこの人たちはみょうじさんを離してくれないだろう。
咄嗟に嘘をつく癖は時に役に立つこともあるんだな、と染々思っていると男子生徒たちは噴き出し、笑い始めた。



「ははは、そうなの?そこの子、さっき友達の弟とか言ってたじゃん」
「恥ずかしいからそう言ったんですよ、な?」
「えっ、あっ、そう、です」



いきなりこんなこと振られて合わせられるわけない。むしろこれで合わせられたらこっちが驚くだろう。
みょうじさんの歯切れの悪い返答に男子生徒たちはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。まだ何か言うつもりらしい。めんどくさい、そう思うがやっぱりみょうじさんのことを見捨てることはできなかった。グッと拳を握り身構える。



「へぇー…ねぇ、本当にこの弟くん彼氏なの?」
「…彼氏ですよ」
「ふーん?じゃあ…キスして証明してくんねぇ?二人がコイビトだっていう証明」
「「は?」」



まさかそう来るとは思わなかった俺とみょうじさんは、キスという言葉にピシッと身体が固まるのだった。


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