私は部屋の中で一本のビニール傘とにらめっこをしていた。このビニール傘の持ち主は言わずもがなヨシタケくんである。ヨシタケくんに送ってもらった日からもう3日が経っていた。幸い、あの日から雨は降っていない。



(返すべき、だよなぁ…)



たかがビニール傘なのにここまで悩む自分はなんなのだろう。いや根本の原因はヨシタケくんでありつまり私は今そのヨシタケくんに悩まされている状態なのだ。
あの日、何を勘違いしてかヨシタケくんは私に傘を差し出して走り去っていった。体、大事にしてください、という謎な言葉を吐き捨てて。顔が赤いと言われたから、きっとヨシタケくんは私が風邪でも引いてるのかと勘違いしたのだろう。
とにかくヨシタケくんが鈍くてよかった、と心底ホッとしたのを今でも覚えている。



(田中に言うのもな…)



手っ取り早く田中に言って渡せば良いのだが、少し気になることがあった。あの田中のことだ、ヨシタケくんに傘を貸してもらったと言ったらきっと根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。そしてその話は瞬く間に友人に知れ渡り、友人たちに弄られまくるかもしれない。それだけは絶対嫌だ。
ヨシタケくんもいくら姉とはいえそんなこと知られたくないだろうし。



(だからといって田中からヨシタケくんのメアドとか教えてもらうのも)



必ず何か言われるだろう。
私は頭を抱える。一本のビニール傘のせいでまさかこんなに悩む日が来るなんて思いもしなかった。
とりあえず、田中や友人たちに知られないようにヨシタケくんに傘を返したい。田中の家に行ったとき傘を置いてくることも考えたがそれは失礼だろうし、田中の家で待ち伏せするのもなんか気持ち悪いような気がする。



(こうなったら高校まで行って直接返せば…)



真田北高校は男子校だしもしモトハルくんに会ったら口止めしてもらえばいいし。うん、そうするしかない。
私は覚悟を決め、明日学校が終わったら真田北高校へ向かうことにした。その前に真田北高校がどこにあるかネットで調べなければ。













真田北高校を調べたのはよかった。よかったんだけど…明日傘を渡しに行く日がなんと午後から60%で雨マークがついていた。そんなまさかこんなときに限って雨マークだなんて。



「帰り雨降りそうだから傘忘れないようにね」
「あ、う、うん…」



自分の傘とビニール傘を持っていくのか。端から見たら怪しく思われるだろう。傘一本で十分なのになんで二本持ってるんだ、と。田中にバレたら確実にバカにされるしこのビニール傘、何に使うのか聞いてくるかもしれない。



「…あ」



あった。田中にバレずに済む方法。

私は朝ごはんを食べ終わると部屋に戻り、折り畳み傘を鞄の中にしまう。そして玄関に置いてあるビニール傘を手に家を出るのだった。




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