みょうじさんに傘をあげたあと、雨の中を走ってやっと自宅についた。びしょびしょに濡れたわけではないが、それなりに濡れてしまい服が肌について気持ち悪い。たたせている髪の毛も濡れて崩れていた。
気持ち悪いしお風呂でも入るか、と風呂場に向かおうとしたら姉がトイレから出てきてちょうど鉢合わせる。姉は濡れた俺を見てニヤリと笑った。
「ダッサ」
「……うっせー」
いちいちうるさい姉だ。
俺がそう言うと姉は間髪入れずチョップを繰り出してきた。避けることができずモロに喰らいデコを押さえる。
「何すんだよ…っ!」
「何となくムカついたから」
そんな理由で殴られるなんて理不尽にも程がある。俺の横を去っていく姉に、みょうじさんが姉だったらなぁ、とふと思ってしまった。
(って何考えてんだ…)
はぁ、と溜め息をつき風呂場へ向かった。
風呂から出た俺はすぐに部屋に入ってベッドにダイブする。ベッドに仰向けになり天井をボーッと見ていると、ふと頭の中に今日の出来事が鮮明に蘇ってきた。
そうか、今日俺は姉の友人とはいえ女の子を家まで送っていったんだっけ。しかも相合い傘までするなんて。あんなの初めての体験だ。
(みょうじさん、無事帰れたかな)
そう思った瞬間、携帯のバイブが部屋に響いた。俺は顔を横に向け鞄を見つめる。携帯は鞄の中だ。
めんどくさいな、そう思いながらダルい体を起こし鞄の中にある携帯を掴んだ。
(…ヒデノリか)
メールの受信欄を見るとヒデノリの名前が出ていた。何を言われるかだいたい予想はつく。ヒデノリからのメールは、どうだった?の一言だけだった。
"どうだった?じゃねぇよ。モトハルたちに見られたし"
送信ボタンを押して携帯をベッドに投げようとしたらすぐにメールが返ってきた。どんだけ打つの速いんだよ。
ヒデノリからのメールを開けると、ウケる(笑)の一言だけだった。ウケねぇよ、全くウケねぇよ!
"モトハルはともかく唐沢や副会長にも見られたんだぞ!明日気まずいじゃねぇか!"
"まぁ大丈夫だろ。気にすんな!"
"もとはと言えばヒデノリやタダクニのせいだろ!"
"いいじゃねぇか、女の子と相合い傘できたんだし。いいなぁー俺も相合い傘したいわー"
そう返ってきたヒデノリのメールに俺はすぐ、お前が送って行けばよかっただろ、と文章を打ったが送信ボタンを押すことはできなかった。相合い傘したいならヒデノリがみょうじさんを送って行けばよかったじゃん、そう思ったのだが何故かヒデノリに言うことができない。
みょうじさんとヒデノリが一緒に帰ってしかも相合い傘をしている様子を想像したら、なんかモヤモヤしたからだ。
(…もういいや)
めんどくさいし、そう思った俺はメール画面を閉じて携帯をベッドに放り投げるのだった。