ヨシタケの視線は道路を挟んで向こう側にいる人たちに釘付けになっている。なまえは急に足が止まったことに首を傾げ、ヨシタケを見上げる。ヨシタケはある一点を見つめていて、自然となまえもその視線につられ前を向く。



「…あ」



視線の先にはヨシタケと同じような制服を着た三人の男子高校生がいて、その三人の内一人の顔を見て小さく声をあげた。その声にヨシタケはハッと我に返る。



「(やべぇ、なんかやべぇ、どうしよ…あいつらめっちゃ見てるし)」
「…あの人たちヨシタケくんの友達?」
「えっ!?あ、え、……」



ヨシタケは迷った。
その三人組は副会長とモトハルと唐沢だったのだが、モトハルはみょうじさんと知り合いだ。副会長と唐沢はみょうじさんを知らないから後でどうとでもなる。が、モトハルはみょうじさんを知っているので言い訳をしても無駄だ。いやモトハルならわかってくれるはず、これが奴らに仕組まれた罠だっていうことを。
傘を持っていない手で顔を覆うヨシタケに三人は空気を察したのか、見ない振りをして歩き出した。それを見たなまえは友達じゃなかったの?とヨシタケに声をかける。
ヨシタケは三人組の高校生をチラ見したあと、人違いでした、と顔を引きつらせながら言った。



「人違いだったんだ」
「いや本当友達に似すぎてビックリしましたよははは」



きっと明日になったら何か言われるだろう。ヨシタケは溜め息をつきたくなった。その一方でなまえは三人組の高校生の後ろ姿を見つめていたので、ヨシタケはふと先ほど小さく声をあげたなまえを思い出し問い掛ける。きっとモトハルのことだろうとわかりきっていても話題を広げるには十分だ。



「そういえばさっき声あげましたけど、みょうじさんはあの三人組の高校生と知り合いなんですか?」
「えっ、あー…うん、まぁ」
「へぇー、誰ッスか?」



ヒデノリの突発的芝居がここで役立つとは、ヨシタケは心の中でヒデノリに感謝する。直接言うと図に乗るし、さらに酷くなりそうな気がするので本人には言わないけれど。
なまえは苦笑いをこぼし、再び歩き出す。それにつられてヨシタケも歩き出した。



「あの三人の中に黒髪の男の子いたでしょ?帽子被ってないほうの」
「あぁ、いましたね」
「その男の子、モトハルくんって言って私の友達の弟でこの間お世話になったんだよね」
「へぇー」



知らない振り知らない振り。そう唱えながらなまえの話に耳を傾ける。その話はこの間モトハル自身から聞いたのだが、今はモトハルを知らないことになっているので会話を上手く合わせる。



「あの子には申し訳ないことしちゃったなぁ」
「なんかあったんすか?」



ヨシタケ自身、その事実は知っているのだがここは敢えてなまえの話に乗ってみる。なまえは思い出しながら話し始めた。



「ミノの家、あ、ミノはモトハルくんのお姉さんね。そのミノの家に泊まりに行ったときモトハルくん、田中やその友達にかなりいじられちゃってて。助けようとしたんだけど、後の祭りでね」
「そう、なんですか…」
「見てて可哀想だったよ…本当、あの子には悪いことした」



申し訳なさそうに呟くなまえに、ヨシタケはモトハルがあの時話してくれたことが頭の中で蘇る。



『あん時俺かなり参ってたんだけど、みょうじさんが姉ちゃんたちを止めてくれたんだよ。それ見て興が冷めたのか姉ちゃんやその友達がいじるのやめてさー。みょうじさんが姉ちゃんだったらってあの時マジで思ったわ。そのあと何回も謝ってきたんだよな…逆にこっちが申し訳なくなるくらい』



その時のことを思い出して感動したのか泣きそうな顔で言うモトハルが印象に残っていたヨシタケは、なまえをフォローするかのようにみょうじさんはいい人っすね、と声をかける。なまえは目を丸くさせてヨシタケを見上げた。



「…いやいや、いい人なんかじゃないよ全く!」
「いや、普通にいい人だと思いますけど」
「そんなことないって、ヨシタケくんの気のせいだよ!」



謙遜するなまえにヨシタケは本当にいい人だなこの人、と微笑ましく思うのだった。



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