ヨシタケは呆然としているなまえを置いて、ヒデノリとタダクニを連れてなまえから離れる。



「?どーしたんだよ」
「あの人誰なんだ?」
「あー…ほらこの間話した人だよ」
「この間?」



ヒデノリはチラチラとなまえのほうを見て、タダクニは腕を組み、首を傾げる。ヨシタケもチラリとなまえのほうを向くと、どうすればいいのかわからないのか、入り口のそばにあるアイスケースの中をボーッと眺めていた。
なんでそこでアイスを眺めるのか。



「あぁ、みょうじさんだっけ?」
「そいやそんな話あったなぁ」
「いやつい最近だろ話したの!」



そう、本当につい最近したばかりの話だ。それなのにタダクニはともかく、ヒデノリは完璧に忘れていたらしい。ハァ、とヨシタケはわざとらしく溜め息をつく。



「それにしてもみょうじさん、濡れてね?」
「あぁ…濡れてんな」
「きっと傘を忘れてコンビニに買いに来たんだろう。だがその傘はヨシタケで最後だったから残念だったな、あの人」
「………」
「………」
「え?なに?」



ヒデノリの言葉に、ヨシタケもタダクニも黙ってヒデノリを睨み付ける。ヒデノリに悪意がないとわかってはいても、やはりそう言われてしまうと罪悪感が悶々と沸いてくる。そんな様子のヨシタケにヒデノリはどうしたんだ?とわかっていないようで質が悪かった。



「…俺、傘あげるべき?」
「欲しがってんならあの人に売ればいいじゃん」
「それじゃあヨシタケがケチだと思われるだろ」
「あーそれもそうか」



ヒデノリよりタダクニのほうがまともなようで、ヨシタケはビニール傘を見つめ肩を落とした。
多分ヒデノリの言う通り、あの人は傘を買いに来たのだろう。かくいう自分も傘を買いに来た身で、しかも最後の一本でラッキーと思っていたがまさかこうなるとは思いもよらなかった。
ヨシタケはまぁ、しょうがないか、と呟くと顔をあげて口を開いた。



「俺傘あげてくるわ」
「そっか」
「だからヒデノリかタダクニかどっちでもいいから傘入れてくんね?」
「え、俺タダクニに入れてもらう予定なんだけど」
「「は?」」



ヨシタケとタダクニは目を点にさせてヒデノリを凝視する。ヒデノリはいやぁ俺も傘なくて、と照れ臭そうに笑って言った。いやそこ照れるところじゃねぇだろ!とタダクニのツッコミが飛ぶかと思ったが、タダクニも初耳だったのか呆然とヒデノリを見つめるだけだった。



「ヒデノリ、お前傘持ってるって…」
「あぁ、ヨシタケが傘買ってるの見て俺傘持ってきたよなぁーって鞄見たらなくってさ」
「えー…」
「ヨシタケかタダクニのどっちかに入れてもらおうと思って」
「気付いたときに言えよ!」



いつもならこんなことがあってもしょーがねぇなぁと笑って終わったかもしれない。しかし、今回はしょーがねぇなぁでは済まされなかった。



「3人で傘入ればいいじゃん」
「折り畳みなのに?!」
「…でもそうするしかねぇよなぁ」



話しかけてしまったことを後悔したが、ここであの人に傘をあげなければ姉に何か告げ口されるかもしれない。そう危惧したヨシタケはとりあえず傘を渡しになまえの方へと歩いていった。



「…つーかさ、みょうじさん、だっけ?」
「なんだよ」
「ヨシタケがみょうじさん送ってけばいいじゃん。そしたら俺も安心してタダクニの傘に入れるし」
「あぁー…でもあいつが納得すると思うか?」
「ま、文句なら後でいくらでも聞いてやるさ。ヨシタケも満更じゃなさそうだしな」



ニヤリと悪どい笑みを浮かべるヒデノリに、タダクニは顔を引きつらせるのだった。



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