羨望と嫉妬
私を見ながら笑みを浮かべるエイトは、ふと何かに気付いたのかエースに話しかける。
「そういえば、あの子はまだ目を覚まさないのか?」
その問いかけにエースの表情が曇る。その表情は以前にも見たことがあった。
心配になってエースの顔を覗き込むように見つめていると、エースと目が合った。そして少し目を細めて口を開く。
「ああ、まだ目は覚めないらしい」
「意識はあるんだよな?」
「意識は、な。あの子との記憶はまだ覚えてるから、死んではいないさ」
あの子?そういえばエイトも言っていた。察するに、エイトやエースの仲間のことだろう。
エースは苦笑いを浮かべてエイトに言ったが、やっぱり表情は晴れなかった。エイトも眉を八の字にさせてエースを見ている。二人の話題についていけない私は、仲間外れにされたようで少し悲しかった。
私はエイトの手からエースの手へ移動する。エイトは一旦部屋に戻ると言って建物の中へ行ってしまった。残されたエースは噴水の近くにあるベンチへ腰をかける。エースの手から降りた私は、今度はエースの膝の上へ移動した。下から覗き込んで様子を見ているとエースは溜め息をつく。そして私を心配させまいと笑みを作った。
「心配してくれてるのか?」
「ピィ」
「そうか…お前は本当に分かりやすいな」
誰かにそっくりだ、そうエースが呟いたのを私は見逃さなかった。私にはエースの言う誰かのことはわからない。けれどそう呟いたエースの表情は穏やかで、それは私ではない誰かに向けられているのだと気付くのに時間はかからなかった。
少しだけ妬けてしまう。エースの言った、誰かに。
「さて、と。教室にでも行くか」
そう言うとエースは私を手に取り、腰をあげる。
本当ならエースの言った【誰か】について教えて欲しかったのだが、私がエースに話しかける手段はない。だって私はチョコボで、ただ鳴くことしかできないのだから。チョコボであることに私が落胆していることなどエースは知るよしもないだろう。
建物の中に入り、部屋に続く扉を開ける。扉を開けると少し廊下があり、そしてまた扉があった。その扉を開けると初めての光景を目にする。たくさんの机や椅子が並んでいた。と言っても机は細長いのだが。
「クポ?エース早いクポー」
「おはよう、モーグリ」
「!?」
変な鳴き声?口癖?をした変な生き物がエースに話し掛けている。それを見て、私は目が点になった。
なんだろう、この白い生き物は。
首を傾げて凝視していると、モーグリと呼ばれた生き物が私に気が付いた。口がないのに喋ってることに驚く。そしてあの目で周りは見えるのだろうか。初めて見る生き物に、私は色々と衝撃を受けていた。
「クポー!チョコボクポー!」
「ピッ?!」
そう言いながら勢い良く近付いてきたモーグリに私の身体が跳ねる。それを見たエースが笑いながらモーグリから少しだけ距離を離してくれた。
「こいつ人見知りが激しいんだ」
「クポ〜…驚かせてごめんなさいクポ」
頭を垂れるモーグリに、私は首を横に振る。気にしないで、と伝えたくても伝えられない。喋れるモーグリが羨ましい。
私の気持ちを察してか、エースが代わりにモーグリに伝えてくれた。
「気にしてないってさ。よかったな」
「ありがとクポー!ボク、モーグリクポ。よろしくクポー!」
そう言って私の周りをくるくる回る。どんな反応をすればいいのかわからなくなり、困惑しながらエースの顔を見上げる。エースは私に気付くと、安心させるようにふっと微笑んだ。
「大丈夫、モーグリは良い奴だから」
「そうクポ!ナインみたいに野蛮じゃないから安心してクポー!」
「ナインが聞いたらどうなるかな」
「クポ!?い、今のは聞かなかったことにしてクポ!」
「仕方ない、今回は聞かなかったことにするよ」
「ホッ…よかったクポ〜…投げられるのはもう嫌クポ」
モーグリとエースのやり取りに私は羨望の眼差しで見つめる。不思議な生き物だけれど、言葉を発せられるモーグリが羨ましくもあり、妬ましくもあった。