一筋の光



 嫌な予感は当たった。
 そいつが言うには、私を武装研究所というところで面倒を見させたいらしい。チョコボ牧場も武装研究所らしいが、そことはまた違う研究所に私を連れて行きたいらしく、そいつは私を拾ってくれた人にそうお願いしていた。
 やっぱり私は実験台にされるのか。だったらいっそのこと、ここから脱走でもしてやろうか。
 そんなことを考えながら、藁をつついていると予想だにしない声が部屋に響いた。


「すまないが断らせてもらう」


 凛としたその声に私は首を上げる。そこには少しだけ表情を歪ませたあの人間がいた。
 どうして断るのだろう。この人たちにとって私は稀少な存在なのに。
 そう思いながらも断ってくれた人間に、私は嬉しさを隠せなかった。立ち上がって小さな翼を精一杯上下に動かす。突然そんな行動をとった私に驚いたのか、二人とも目を見開いて私のほうを見ていた。


「…………」
「…………」
「……はは。分かりやすいチョコボだ」
「…そうだな」
「ま、嫌がるチョコボを無理矢理連れて行くわけにはいかないな。仕方ない、エース、君がこのチョコボを育ててくれないか」
「僕が?」
「あぁ、この雛チョコボを外界へ逃がしたところでモンスターに食べられるのがオチだ。親もいないからな。誰かが育てたほうがこのチョコボにとってもいいだろう。見たところ、エースには警戒心を解いてるようだし…ああ、大きくなってきたらチョコボ牧場に連れて来てくれ」
「でも、チョコボ牧場では育てられないんじゃないのか?」
「この子が大きくなる前に新しい小屋を作っておくよ。もちろん、他のチョコボたちとは少し離れた場所にね。ちゃんと試乗のための柵も作るしそこなら大丈夫だろ」
「そうか…色々とありがとう」
「いやいや、チョコボのためならなんだってやるさ。その代わり定期的に俺が様子を見に来るからな」
「あぁ、わかった」
「じゃ、そのチョコボによろしく言っといてくれ。また来るとき連絡入れるから」


 そう言うと、その人間は私の箱を覗き込んできた。私が身構えるとその人間は苦笑いをしながら、私の箱から離れて部屋から出て行った。
 部屋から出ていったことを確認していると、突然人間が両手で私を包み込んだ。その行動に私は吃驚して小さく鳴いてしまう。このやろう、いきなり何をするんだと頭を上げれば、その人間は優しい笑みを浮かべていた。


「これからよろしくな」
「………」


 そんな笑みを向けられたら、手のひらをつつくこともできやしないじゃないか。なんか悔しいし狡い。
 モヤモヤする私を他所に、人間はすぐに私を箱の中へと戻す。
 なんだかこのままじゃ私の気が収まらない。なんかしてやりたい。
 そう思った私はまた翼を上下に動かして、こっちを向け、とアピールする。すると私の羽の音に気がついたのか、人間が私に目を向けた。今だ。


「…?」
「…ピ……ピピィ…」
「………」


 もっと大きく鳴きたかったが、少し緊張したのもあってかなり小さく鳴いてしまった。これはこれで恥ずかしい。
 人間の反応を見る前に私はそっぽを向いて不貞腐れるように座った。


「…はは」
「!」
「確かに、ヒショウの言った通り分かりやすい奴だな」


 ヒショウとはさっきの人間のことだろうか。分かりやすいとか、なんのことだかよくわからないけどなんか馬鹿にされているような気がする。なんだかムカッときたから、箱の壁をつついて八つ当たりすることにした。

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