今在るしあわせ
朝、起きたらチョコボ牧場に行く。それはもはやヒナの日課となっていた。
魔法陣でチョコボ牧場に行くとヒヨチョコボがヒナを出迎える。自分はまだ覚醒しきっていないのにヒヨチョコボの元気さに、ヒナは思わず苦笑を浮かべた。
チョコボに餌を与えたり、ヒヨチョコボと戯れたりしながら、彼が来るのをおとなしく待つ。そして魔法陣が起動する音がヒナの耳に入った。慌てて振り返る。
「エース!」
「おはよう、ヒナ。いつも早いな」
「えへへ、おはよう!」
ヒナは立ち上がってエースに駆け寄る。エースもヒナのそばに歩み寄り、止まることなくそのままヒナを抱き締めた。ヒナもエースを抱き締める。
「ふふ、エースの匂い」
「匂い?」
「うん、私エースの匂い好きなの」
「そうか…僕もヒナの匂いが好きだよ」
「……なんかエースが言うと色っぽい」
「?どういうことだ?」
「ううん、なんにも!」
首を傾げるエースをよそに、ヒナは強く抱き締める。ヒナはこの時間が一番好きだった。
エースと同じ組とは言え、こんなことできるのは二人きりの時しかない。二人の時間が少ない彼らにとって、毎朝のハグは当たり前となっていた。
「ヒナ」
「んー?」
「顔、見せてくれ」
「?」
ヒナはエースに言われた通り顔を上げる。こつん、と額同士がぶつかった。どちらからともなく笑みを浮かべる。
「…まだ慣れないのか?」
「え?」
「顔赤いぞ」
「……そういうエースは随分余裕そうでっ」
「まぁ、一応やることはやったからかもな」
「んなっ!?な、なっ、なんてこと言うの!」
エースの言葉に薄っすら赤かっただけの顔が真っ赤に染まる。そんな反応を示すヒナに、エースは目を細めた。同時に、ヒナをいじめたいという欲求にかられる。
しかし、それを抑えるようにエースは大きく息を吸った。
「はぁ…」
「…なんで溜め息吐くの」
「ん?いや、ヒナが可愛いからつい、な」
「何それ、意味わかんないよ」
ヒナはそう言って呆れたように笑う。エースはヒナの額に手を当てて、撫でるようにヒナの前髪をあげた。そのまま、唇を近づける。
「!」
「…今はこれで我慢しておくよ」
「が、我慢って…」
ヒナが何かを言う前に、エースはまたヒナを抱き締める。ピーピーと鳴き続けるヒヨチョコボの鳴き声を聞きながら、エースは今在る幸せを噛みしめた。