君に焦がれる



 ヒナが0組に異動になったと聞いて、僕は驚いたけど素直に嬉しかった。違う組だった時よりももっと一緒にいられる時間が増えると内心舞い上がっていたのは事実だ。
 しかし、いざ同じ組になってみたら、一緒にいられる時間なんてものは皆無に等しくなり、以前よりもモヤモヤすることが多くなった。その原因は悔しいことに自分の仲間にある。


「ねぇねぇ、ヒナー、日向ぼっこしよー」
「あ、ジャックんずるい!わたしも日向ぼっこする〜!ほら、ヒナちゃん一緒に行こう〜」
「あ、はい、えぇと先に課題を終わらせますので少し待っててくれますか?」
「えー、後でもいいじゃん、課題なんてさぁ」
「そうそう、今日とーっても天気いいんだから日向ぼっこしなきゃ損しちゃうよ〜?」
「う、確かに損しちゃうかも……あ、じゃあジャックくんもシンクちゃんも一緒に課題やりませんか?課題終わったあとの日向ぼっこのが気持ちいいですよ」


 そう言うな否や、ジャックとシンクは嬉しそうにヒナに駆け寄り、いつもなら後回しにする課題を嬉嬉として取り組み始めた。あの変わりようには僕を含む数人が首を傾げたほどだ。
 もちろん、ジャックとシンクだけではない。


「ヒナさん、わたしたちと一緒にリフレ行きませんか?」
「あ、行きます!サイスさんもどうですか?」
「はぁ?!なんであたしが行かなきゃ…」
「い、嫌ならいいんです…昨日、数量限定のモンブランの券を8組の子から譲り受けまして…この間、サイスさん、モンブラン食べたいと言ってたのでどうかなと…」
「なっ…そ、その券あたしにくれんの?」
「はい!私は去年食べましたので。サイスさんさえ良ければ…」
「あっそ。……あんたが使わないんだったらあたしが使ってやるよ。勿体ねぇし。別に食べたくて行くんじゃないからな!…ほら、さっさと行くぞ!」
「あ、はいっ!」
「うわー、サイスを餌付けするなんてヒナもサイスの扱い方がわかってきたのかね」
「いや、あれは餌付けしてるとは思ってないんじゃないか?」
「ふふ、ヒナさんとっても嬉しそうで何よりです」
「今や人見知りとは思えないくらいだよね」
「最初はあんなに怯えていたのに案外すぐに打ち解けることができて、なんだか前から0組に居たような気さえしてきますね」


 女子たちに囲まれてリフレに出掛けるヒナは凄く嬉しそうで、皆と仲良くできてホッとする反面、なんだか悔しいような気もしないでもない。同姓と仲良くなる分には全然良いし、悔しい気もするけれどヒナが楽しいならそれでよかった。ただ、まだ問題はある。


「ヒナってチビだよな」
「うっ、な、ナインくんがでかすぎるんですよ。何食べたらそんなに大きくなれるんですか」
「んなもん肉に決まってるだろぉが。つーかエイトの後ろに隠れんじゃねぇ出てこいコラ」
「ナイン、ヒナが怖がってるだろう、いい加減ガン飛ばすのやめろ」
「ナインくんはもう少し穏やかになったほうがいいと思いますけど……今さら無理ですよね」
「えぇ。ナインは昔からこんな性格ですので、今さら穏やかになられても対応に困りますね」
「ナインが穏やかになったら絶対槍が降ってくるよー」
「あぁん?穏やかってどう穏やかになりゃいいんだよオイ」
「もういい考えるな。槍が降るだけじゃ済まされないぞ」
「やっぱりそうですよね。ナインくん無理言ってすみません、そのままでいてくださいね」
「?、なんかよくわかんねぇが、わかった」


 失礼なことを言われているのに気付かないナインと、エイトの後ろに隠れるヒナ。そんなヒナを囲うようにトレイとキングとジャックがいる。それを見てモヤモヤしないわけがない。ナギのときもそうだったが、自分がこんなにも独占欲が強いとは思わなかった。
 今はこうして平然としているが、ヒナが僕ではない異性と喋ったり、楽しそうに笑ったりしているところを見ると頭に血が上りそうになる。本当ならヒナが仲間と打ち解けられたことに安心しなきゃいけないのに、もはや安心どころではない。今の僕の心は嫉妬心でいっぱいだった。
 こんな僕を、ヒナはどう思うのだろうか。


「…カッコ悪いな」
「何が?」
「!?」


 慌てて顔を上げればヒナが僕の目の前にいて、独り言のつもりがばっちり聞かれていたらしい。黄色い瞳で僕をまっすぐ見つめてくるヒナに、僕は気まずくなって彼女の視線から逃げるように目を逸らした。


「別に、何でもない」
「そう?」


 そう言いながら、僕と無理矢理視線を合わそうとしているのか顔を覗いてくる。その姿が不意にヒナチョコボと重なって見えて、僕は目を見開いた。ヒナは眉尻を下げて首を傾げる。


「エース…?」
「あ、あぁごめん…」


 やっぱり彼女はどこかヒナチョコボに似ているような気がして、僕は目を細めて彼女の頭を撫でた。僕の行動にヒナは目を丸くさせる。やがて、だらしなく笑みを浮かべた。


「へへ…」
「ん?」
「エースに撫でられるの、凄く安心する」
「…そうか?」
「うん!」
「僕は……こっちのほうがいいけどな」
「え?」


 撫でていた手を頭の後ろに回して、思いきり僕のほうに引き寄せる。胸にヒナの顔が当たるともう片方の手を彼女の背中に回した。

 撫でるのもいいけど抱き締めたほうが、ずっと安心できる。

 そう彼女の耳元で囁くと、彼女は耳を真っ赤にさせる。そしておそるおそる僕の背中に腕を回す彼女に小さく笑いながら、僕は彼女の体を抱き締めた。
 僕は自分が思っていたよりもずっとヒナのことが好きなんだと、そう実感せざるを得なかった。

 そんな僕らに仲間が冷ややかな目線を向けていたことなど、ヒナは知るよしもないだろう。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -