生きる道と選択肢

 捕まって数日、私はやっと自力で立つことができるくらいに回復した。
 私を捕まえた人間は毎日せっせとギザールの野菜を持って差し出してくる。もちろん、人間の手元からギザールの野菜が離れるまで食べないが。

 しかしながら、この人間は一体私に何をさせようというのか……ハッ、もしや丸々に太らせてから丸焼きにして食べようとしているのか…?!

 そう考えながらギザールの野菜をつまんでいると、人間はいつものように微笑みながら私の食べる姿を見ていた。最近では私もほんの少しだけ警戒心を解いて、人間の目の前でギザールの野菜を食べることができている。それは、この人間が悪い人間だとは思わないからだ。


「美味しいか?」


 人間はいつもこの質問をしてくる。反応が返ってこないとわかっているのに、だ。
 もしこの質問に答えたらどうなるのだろう。そんな疑問を抱いた私は悩むより先に行動に移していた。


「…ピィ」


 鳴いたあと、少し後悔する。こんな人間にどうして私は隙を作ってしまったのだろう、と。

 私の鳴き声に驚いたのか、人間は私を凝視する。人間に見られることに慣れてない私は、気まずい空気のなか、ギザールの野菜を食べることしかできなかった。


「また明日も採ってくるからな」


 自分の近くで人間の声がしてハッと振り向くと、人間はいつの間にか私の目の前まで迫っていて、そして指先で頭を触ってきた。もちろんすぐに逃げたが、人間が嬉しそうにしている反応を見て、そんな反応になるとは思わなかった私は困惑する。
 親の言っていたこととはまるで正反対で、どの人間が悪い人間なのか判断ができなくなってしまった。





 その日はいつもいる人間の他に、もう一人人間が個室に入ってきた。私をいつも監視している人間とは違う服装をしている。
そいつは近付いてきて私の寝床となっている箱を覗き込んできた。
 誰だ、この人間。もしかして、実験台として私を迎えに来たのだろうか。


「この子が君が拾ってきた子か」
「あぁ…身体はだいぶ良くなってきてる、と思うけど」


 健康状態を見にきた、ということは、やっぱり私は実験台として使われるのだろう。前言撤回、やっぱりこいつらは悪い人間だ。
 覗き込んでいる人間を睨み付けると、人間は腕を組み私から視線を外した。


「確かに、健康状態は良好だな」
「それならチョコボ牧場で育てられるな」
「ああ、まぁ育てることは可能だが…」


 チョコボ牧場?私のようなチョコボが沢山いるとでもいうのか?
 疑問に思った私は人間の話し声に耳を傾ける。


「…なにか問題でもあるのか?」
「そういうわけじゃないんだけどな…この子の品種は極めて稀少な品種で、チョコボ牧場で飼っているチョコボとは性質が全く違う。この子の品種は、今は野生でしか見られないと言われていて、捕まえることはもちろん見つけるのも簡単ではないんだ。それに野生のチョコボは気性が荒くて、とくにこの子の品種は人間への警戒心が強い。俺たちで育てられるかわからないし、他のチョコボに危害を加える可能性もなくはない」


 淡々と言う人間の言葉は私には難しく、全部を理解することはできなかったが、私は普通のチョコボとは何かが違う、ということだけは理解できた。
 人間の言うチョコボ牧場にもし連れていかれたとしても、見知らぬチョコボと仲良くやれる自信はないし、しかも人間に飼い慣らされているチョコボと仲良くなんてできるわけがない。チョコボ牧場以外に選択肢があるとすれば、実験台か、もしくは逃がすか。後者はないに等しい。私が普通のチョコボとは違うとわかったなら逃がすわけにもいかないだろう。ということはやっぱり私は実験台としての道しかないのかもしれない。


「チョコボ牧場では預けられないってことか」
「力になれなくてすまない…」
「いや、仕方ないさ。チョコボ牧場が無理なら野生へ帰すしかないな」


 私を捕まえた張本人のまさかの言葉に私は目が点になる。
 もしかして、外へ帰れるかもしれない。そんな希望を持ったが、もう一人の人間の言葉に希望は呆気なく崩れ去る。


「そのことなんだが、この子チョコボについて色々と調べたいんだ。滅多にお目にかかれないチョコボだし」
「でもチョコボ牧場では飼えないんじゃないのか?」
「ああ、それで、だ」


 その人間の次の言葉に、私は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

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