親の心子知らず



「なぁ」
「ん?」
「ナギとはどういう関係なんだ?」
「え、ナギさん?」


 エースの唐突の質問にヒナは目を丸くする。エースは気恥ずかしいのかヒナの顔を見ないで雛チョコボに視線を向けていた。
 ヒナの手からギサールの野菜をふんだくり、二羽の雛チョコボが取り合いをし始める。それを落ち着かせながら、ヒナは「んー」と首を傾げた。


「どういう関係って言われてもなぁ」
「…すまない、聞き方が悪かったな。ヒナって人一倍人見知り激しいだろ?」
「うっ、…否定はしないです」
「なのになんでナギに対しては普通なのかなって思ってさ」


 そう言いながらエースは頬をかく。やましい関係ではないことくらいエースも知っている。けれど、人一倍人見知り激しい彼女がナギには普通に接しているのが気になった。何故、気になったのかはエース自身まだわかっていない。
 ヒナはエースの言葉を聞いて、少しだけ胸が高鳴る。それってもしかしてもしかすると、とドキドキするヒナに、エースがちらりとヒナに視線を向けた。エースと目が合うと慌ててヒナは目を逸らす。


「え、と、ナギさんは一時期、8組にいたことがあって」
「え?あの、ナギが?」
「うん、私も詳しくはわかんないんだけど…ナギさんが8組に在籍中にたまたま任務が被った時があって、それから良くしてもらってるの」
「……ふーん」


 本当はその任務が被った時の詳細を教えて欲しかったけれど、エースは深く追求できなかった。面白くない、そう思いながら自分を見上げる雛チョコボの頭を撫でる。そんなエースの様子に、ヒナは勘づいて小さく笑ってしまった。
 小さな笑い声にエースがヒナをじとりとした目線を向ける。それが無意識なことにエースは気付かない。


「えへへ」
「何笑ってるんだ」
「んー、エースには申し訳ないけど…嬉しくて」
「嬉しい?なんで嬉しいんだ?」
「えっ、だって私とナギさんの関係が気になるんでしょ?」
「まぁ……気にならないと言えば嘘になるな」


 その答えにヒナはまたくすくす笑う。エースはそんなヒナを見て、首を傾げた。


「ナギさんとノーウィングタグ拾ってた時ね、『お前よくチョコボ牧場にいるだろ』って言われたんだけど」
「ナギの真似、下手だな」
「うう、うるさい!」
「ふっ…ごめんごめん。それで?」
「もう…えーと、それでまぁ『はい』って答えたら、『朱のマントの奴見たことあるか?』って聞かれたんだよね」
「…………」


 もしかしてその朱のマントの奴って、とエースは顔を歪ませる。エースの予想は的中したらしく、ヒナは首をうんうんと縦に振った。


「エースのことだねー」
「…やっぱり。でもなんで僕が出てくるんだ?」
「んー、さぁ?ナギさんの考えてることなんてわかんないもん」
「そうだよな…」


 エースは顎に手を当てて考え込む。
 魔導院に入るまでたまにチョコボ牧場に来ていたとはいえ、どうしてナギが自分の存在を気にしていたのだろう。敵か判断したかったのか?
 色々考えてはみるけれど、答えなんて出るはずもなくエースは溜め息を吐いた。そしてヒナを見て口を開く。


「で、ヒナはなんて答えたんだ?」
「え?あー、見たことはないですけどヒショウさんから聞いたことはありますって」
「そうか…」
「でね、それからナギさんったら私に会うたびにその朱のマントの奴見たか、て聞いてくるの。ヒショウさんに聞けばいいのにね」


 あの人、それなりに人気者だから女の子の視線が痛くてめんどくさかったんだから、と口を尖らせて言うヒナを見て、胸の辺りがちくちくと痛みだす。その原因がわからず首を捻っていると、背後から陽気な声が耳に入った。


「よー、お二人さん」
「あ、噂をすればなんとやら」
「噂?なになに、俺の噂してたの?」
「ナギさんはたらしだねーて話してたんです。ね、エース」
「…あぁ」
「たらしなんかじゃねぇっての。こう見えて俺一途だし」
「はいはい」


 エースは振り返って確信する。誰のせいで胸が痛んだのか。
 ナギはエースを見て少し目を見開く。エースはナギを見ずにヒナへ視線を向けた。


「ヒナ」
「ん?」
「たまには一緒に出掛けるか」
「えっ!?う、うん!行く!」
「じゃあ噴水広場で待っててくれ」
「わかった!あれ、でもエースは?」
「僕はナギに話があるから、それ終わったらすぐ行くよ」
「ん、了解です。じゃあナギさん、失礼します」


 ヒナはナギに向かって律儀にお辞儀をしてチョコボ牧場を後にする。ヒナの姿が見えなくなると、エースがナギに振り返った。心なしかエースの目が鋭く光っているように見えて、ナギは顔が引きつるのを感じた。


「ナギはヒナのことどう思ってるんだ?」
「え、何いきなり。別に、どうも思ってねぇけど」
「本当か?」
「俺が嘘をついてるように見えるか?」
「見える」
「即答かよ!」


 いつになくつんけんな態度のエースにナギは小さく息を吐く。エースの言いたいことを何となく気付いたナギは口端を上げて目を細めた。


「嫉妬か?」
「嫉妬?」
「んな心配しなくてもいいって。人のものに手を出す趣味はねぇし…そりゃあヒナのことは好きだぜ?」
「なっ…」
「でもそれはあくまでライクだから。ヒナのことは妹みたいに思ってるだけだよ」


 そう言うとエースは納得いかないような表情でナギを睨み付ける。案外独占欲あるんだな、と鼻で笑ったらエースの眉間が一層険しくなった。エースをこれ以上怒らせないように宥めにかかる。


「そうだ、エースも俺の弟になるか?」
「…あんたみたいな兄なんて僕はごめんだ」
「ひっでえ言われよう…」


 苦笑するナギをちらりと見てエースは踵を返す。その背中に向かって、何かを思い出したかのようにナギが声をかけた。


「あ、エース!」
「…?」
「ヒナのこと泣かせたら俺の説教が待ってるからなー!」


 だから泣かすような真似するなよ、と告げるとエースは自信満々に笑みを浮かべながら口を開いた。


「ヒナは僕が必ず幸せにする。だから説教することなんて生涯ないから安心してくれ」
「…………」


 それだけ言うとエースはチョコボ牧場を後にする。取り残されたナギは苦虫を噛みつぶしたような顔で空を見上げた。


「なんか複雑だわー…」


 妹のように思っていたけれど、それはどうやら違ったらしい。大事な一人娘をとられた父親のような気分になるナギだった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -