曖昧じゃないもの



 あれから数日が経ち、任務を終えたエースは報告書を提出したあと、チョコボ牧場に足を運ぶ。魔法陣からチョコボ牧場に移動すると、二羽の雛チョコボがエースに駆け寄ってきた。その後ろから大人のチョコボが二羽、近付いてくる。


「お、エースか」
「ヒショウ、こいつらは?」


 足元で飛び跳ねる二羽の雛チョコボに目線を向ける。嬉しそうにエースを見上げる雛チョコボたちにエースは自然と頬が緩んだ。


「こいつら昨日の夜に生まれたんだ。うるさいだろ?」
「いや、元気があっていいと思う。僕はこれくらい元気があったほうが好きだ」
「そうか?はは、そう言ってもらえてこいつらも嬉しいってさ」


 ヒショウがそう言うと同時に雛チョコボたちが小さな羽をパタパタと動かす。それを見てエースは懐かしさを感じながら、広場の方に視線を移した。
 見慣れた背中が目に映り、エースは微笑む。


「やっとチョコボ牧場に来れたって、彼女涙流すもんだからびびったよ」
「ふ、そうか。…慰めたりしたのか?」
「そんな目で俺を見るなよ…泣いてたらエースが心配するぞ、とだけ言っておいた」


 早く行ってやれよ、そう言いながらしっし、と手を払うヒショウにエースは苦笑いを浮かべる。まとわりつく雛チョコボを踏まないようにエースは彼女の元へ歩いていった。
 ヒショウはエースの後ろ姿を見ながら微笑を浮かべる。


「俺も、あんな恋愛してみたいな」
「今更あんたには無理でしょ」
「んなっ!?つ、ツバサ!聞いてたのか今の!」
「ばっちり。オオバネにも話してやろっと」
「あー!やめろ!やめてくれ!」
「何がやめろ、なんだ?」
「こんなときにタイミング良く現れんな!」


 後ろが騒々しいけれどそんなのお構い無しにエースは彼女との距離を縮める。足音に気付いたのか、彼女が振り返った。
 黄色い目がエースを捉えると、彼女は目を見開き、表情が明るくなった。


「エース、おかえり!」
「ただいま、ヒナ」


 ヒナがエースの元に駆け寄ると、エースはヒナの手を掴み自分自身に引き寄せる。ヒナの体が腕の中に収まると、ヒナはおそるおそるエースの名前を呼んだ。


「その、どうしたの?」
「…何となくな」
「何となく?ふふ、エースはいつも曖昧だね」
「そうか…?」
「うん、曖昧」
「…………」
「?、ごめん、怒った?」


 ヒナが不安げな顔でエースの顔を覗き込む。エースと目と目が合うと、エースは目を細めた。


「確かに僕は曖昧かもな。でも、こんな僕にも曖昧じゃないことが2つある」
「2つ?なになに?」
「1つはチョコボが好きなこと」
「なるほど、じゃあもう1つは?」
「もう1つは……」


 そう言いながらエースは手でヒナの顎を上に持ち上げる。目を丸くさせるヒナにエースは躊躇することなく口付けをした。唇が離れると、ヒナの顔が真っ赤に染まっていてエースは小さく笑った。


「え、エース…!」
「もう1つはヒナが好きなこと」
「は…」
「曖昧にできないくらい、僕はヒナが好きだ」
「……わた、私も、その、エースが好き、大好き、です」


 聞こえるかわからないほどのか細い声に、エースはヒナを強く抱き締めた。







【人間として生きた少女の願いと、チョコボとして生きた少女の魂はひとつに纏まり収まった。忌み嫌った人間に救われた命を尊い、離れ行く魂を救済するけれど記憶を喪失してしまう。
救われた人間と過ごしていく中で、自我が芽生え視野を広く見た魂は、記憶の欠片を取り戻していく。そうして過去の記憶を知った魂は、全てを悟る。
全てを悟り、選択した魂は2つの魂を救い死を受け入れる。消化されたと見られた御霊が子へ救済を求め、結果、魂は消化されず魂と魂が重なり合った。】


「…不思議なこともあるのね」


 持っていた羽ペンを置いて、本を閉じる。


「愚かだと思っていたけれど今はそう思わない。不思議な生き物ね」


 そう口にするとアレシアは微かに笑みを浮かべたのだった。


――end
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