脱出



 突如襲撃された0組はホテル・アルマダを出て地下道へ逃亡をしていた。前方から現れる敵に、0組は応戦する。


「女王暗殺容疑とかほんっと意味わかんない!」
「全くです……とにかく今は一刻も早くここから出なくては…」
「!おいっ!何か来るぞ!」


 キングのその一声に彼らは武器を構える。そんな彼らの前に現れたのは、思いがけない生物だった。


「チョ、コボ…?」
「なんでこんなとこにチョコボが…?」


 自分達に向かって走ってくるチョコボの姿に、彼らは顔をしかめる。そのチョコボは全身が血に染まっていて、普通のチョコボとは違うと一目でわかるほど異常なオーラを纏っていた。
 あまりの姿に言葉を失っていると、チョコボの後ろから数人の皇国兵が現れ、チョコボに向かって銃を構える。


「チョコボを狙ってるのか?」
「あのチョコボ、なんか気味が悪いねぇ〜…」
「つーかなんでここにチョコボなんかいるんだよ」
「さぁ…あっ、エース!待ちなさい!」


 クイーンの制止の声を振り切り、エースは駆け出す。銃声がいくつか響くと、撃たれたのかチョコボは足が縺れ、床に倒れ込んだ。その様子にエース以外の彼らも思わず走り出す。


「始末できたか…?」
「わからない、とにかく回収しなくては…」


 倒れ込んでいるチョコボの躯を足で揺さぶる。すると瞑っていた目が開き、ギロリと皇国兵を睨み付けた。一瞬怯む皇国兵に向かって足で皇国兵の体を蹴りあげる。


「ぐっ…」
「おい!くそ、チョコボのくせに…!」


 銃口をチョコボに向ける。ゆっくり起き上がりながら自分を見据えるチョコボに、皇国兵の背筋が凍った。震える手で引き金を引こうとするけれど、それは敵わなかった。


「チョコボに手を出すな!」
「!貴様…そうか、もうここまで…痛っ!?」


 エースの声に皇国兵に隙ができる。その一瞬の隙を見逃さず、チョコボが皇国兵の持っている銃剣を足で弾いた。弾かれた銃剣が遠くへ転がっていくと続け様にチョコボが皇国兵の頭をくわえ、首を思いきり横に振り皇国兵の体を飛ばす。壁に叩きつけられた皇国兵は力なく崩れ落ちた。
 一連の動作に呆然としていると、チョコボがエースに振り返る。エースはチョコボを見上げ、目を丸くした。


「お前……」
「ピーッ!」
「!」


 チョコボの背中から雛チョコボの鳴き声がして、エースは背中を覗き込むと二羽の雛チョコボが身を隠すように寄り添い、チョコボにしがみついていた。見覚えのある雛チョコボにエースは眉をひそめる。


「おい!エース、大丈夫か!」
「!あ、あぁ、僕は大丈夫…あ、おい!」


 エース以外の彼らが近付いてきたのと同時にチョコボは逃げるように駆け出す。エースの声に立ち止まることなく、血に塗れたチョコボは彼らの前から姿を消した。


「あいつどうしたんだ…?」
「あの子、体血だらけだったけど大丈夫かなぁ…」
「チョコボの亡霊だったりしてねぇー」
「ハァ?!亡霊とかんなもんいるわけねーだろコラァ」
「今は気にしてる場合じゃありませんよ。追っ手が来る前に行きましょう!」


 その言葉に頷き合い、足を動かす。先行く彼らに、エースだけはチョコボが去っていった通路を見つめていた。見兼ねたキングがエースに声をかける。


「エース……行くぞ」
「……あぁ」


 エースはキングの後ろを追い掛けながら、先ほどのチョコボの姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。







 皇国の地下道をチョコボは走り抜ける。皇国兵のほとんどが0組の捕縛に行っているからか、あれから敵に出会していない。出口を探して走るチョコボの前に、突如皇国兵とフードを深く被った人間が現れた。チョコボは足を止めて身構える。


「俺たちは怪しい奴じゃない…て言っても聞かないだろうな」
「安心して、私たちはあなたの敵じゃない」


 じっと彼らを見据えるチョコボに、少女がチョコボに手を伸ばす。少女の手が嘴に触れた瞬間、チョコボは力なくその場に倒れた。二羽の雛チョコボが心配そうにチョコボの顔を覗き込む。


「酷い怪我…」
「こっちもヤバイが、急がねぇとアッチももう持たないぜ」
「…うん、そうだね」


 少女が倒れているチョコボの躯を撫でるとチョコボの躯が光に包まれ、みるみるうちに小さくなり、やがて本来の姿に戻った。少女は血だらけのチョコボを掬い上げ、振り返る。


「行こう」
「あぁ」


 二羽の雛チョコボを両手に持った皇国兵が何かを唱えると、二人はチョコボと共に姿を消した。

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