利用されるチョコボ



「チッ、手間取らせやがって」


 血だらけの雛チョコボに向かって舌打ちをする。研究員はその雛チョコボをつまみ上げ、机の上に置いた。
 チョコボの目はまだ自分達を映していて、生命が絶たれていないことに安堵するけれど、同時に恐怖を感じさせた。


「…薬ができたら一番にこいつで実験しよう」
「ですが薬ができるのは2日後ですよ?そいつ生きていられますかね?」
「死んでいたら死んでいたでいい。だが、生きていてくれたほうがこちらとしては助かるんだがな」
「確かに生きのいい二羽のチョコボはあまり使いたくないですよね」
「あぁ。成功したら成功でよし、失敗したらまた作り直さなければいけないからな」


 そう言いながら研究員はまだ息の根があるチョコボに視線を移す。


「チョコボのくせに人間みたいな目しやがって。その目、気味が悪いんだよ」


 そう言い捨てると研究員は踵を返した。それに続いて皇国兵も研究室から出ていく。
 静まり返った研究室で、二羽のチョコボのうち一羽が横たわるチョコボに向かって小さく鳴いた。しかし、応答はない。
 チョコボの体は既に満身創痍だった。息をするのだけで精一杯で、鳴くことも、体を動かすこともできない。
 二羽のチョコボはそれをじっと見つめることしかできなかった。







「…?」
「エース、どうかした?」
「あ、いや…なんでもない」


 0組は皇国首都イングラムにあるホテル・アルマダで一時の休息を取っていた。ファブラ協定により一時休戦となり、近いうちに停戦会談が開かれる。0組は何故か魔導院に帰ることが許されず待機命令を下され、ホテルで休息を余儀なくされた。
 ホテルのロビーで待機している間、エースが窓の外を見上げる。


「(チョコボの、鳴き声が聞こえた)」


 はっきりとは聞き取れなかったけれど、エースはチョコボの声がしたような気がした。魔導アーマー破壊の任務の前にチョコボ牧場に置いてきた雛チョコボが脳裏に浮かぶ。
 今頃、何をしているのだろう。元気にしているだろうか、二羽のチョコボの面倒を見ているのだろうか、それともヒショウの言うことを聞かず不貞腐れているだろうか。寂しい思いを、していないだろうか。
 考えれば考えるほどチョコボが気になって仕方ないエースは無意識に溜め息を吐いていた。


「何溜め息吐いてんの?」
「…今、僕溜め息吐いてたか?」
「無意識だったんですね」
「どーせエースのことだ、あのチョコボが気になるんだろオイ」
「……否定はしないな」
「…マジかよ」
「まぁあれだけ溺愛してたら気になるでしょー」
「で、溺愛とかじゃない!」


 ジャックに茶化されエースは耳を赤くする。それを見て、ナインが追撃しようと口を開いた瞬間、ロビーの扉が開いた。ロビーに入ってくる人物に0組は顔を見合わせた。







 熱い。体が熱い。頭がボーッとする。視界がボヤけて見える。体も動かない。


「…生きて……けど、…します?」
「薬を……し…」
「……弱って……すか?」


 人の声が頭に響く。そうか、あの時私、銃で撃たれて、それで――。
 私はまだ死んでない。でも多分もう持たない。自分のことは自分が一番よくわかってるから。死ぬのは二回目になるのだろうか。まさか死を二回も経験するなんて思いもしなかった。二回も、エースに恋をするなんて思いもしなかった。最期にエースに会いたい。あのチョコボ牧場での別れが最期の別れになるなんて、そんなの絶対に嫌だ。
 不意に引っ張られ、体の傷が疼く。意識が朦朧とするなか、一本の注射器が私に近付いてきて注射器の針が私の小さな心臓に突き刺さった。


「ビィッ…」
「床に置くぞ、そこを退け」


 心臓が大きく脈を打つ。体の骨がぎしぎし鳴りながら膨張していくような感覚に、私は目を見開いた。


「お、おぉ…その薬は何なんですか?」
「強制成長剤、それに強化剤を加えたものだ。雛チョコボのままでは戦力に欠ける。成長剤に強化剤、同時に薬を体内に入れることで力が増大する」
「我々に攻撃はして来ないんですか?」
「この薬の副作用は自我を無くしてしまうことだ。こいつはもう命令しない限り動かない」


 頭に声が響いてきて、そうなのかと納得する。確かに私の体は私自身では動かなかった。研究員が「立て」と口にすると足が動き出す。体の痛みも何も感じない。「歩け」と命令されれば歩き出す。「走れ」と命令されれば勝手に走り出す。自分の体のはずなのに自分の体ではない感覚が気持ち悪かった。


「少佐!朱の魔人が逃げ出しました!」
「!そうか、ちょうどいい。こいつと、あの番外者も使うことにしよう」
「番外者!?いや、まだ奴は完璧に制御できない!」
「やってみなければわからないだろう?試してみなくては次のためにもならん。おい、そこの扉を開けろ。番外者はその奥だ」
「くっ…わ、私は知らないからな!」


 研究室の奥にある扉が開く。ふと二羽のチョコボが隔離されている籠が目に入った。二羽のチョコボは私の目を見て、声高く鳴く。その声を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。

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