籠の中で



 籠の中が揺れる。二羽のチョコボと共に寄り添いながら、刻々と時間が過ぎていく。
 もし私の予想が当たっていれば、助かる可能性は限りなくゼロだ。そもそもなんで彼らが私たちを攫うのか不思議でならない。必死に思考を巡らせるけれど、いくら考えても答えが出ることはなかった。
 やがて籠の中の空気が一気に冷たくなる。それは私たちを乗せた魔導アーマーが豪雪地帯に入ったということだ。多分もうすぐ皇国首都に着くだろう。
 皇国首都といえば今ごろ、0組が新型魔導アーマーの破壊に動いているはずだ。どうかエースが無事でいますように、そう祈っていると急に揺れが収まった。


「…はぁっ?!どういうことだよ!」
「!」


 私たちを攫った人間の怒号が籠の中にまで響いてくる。私たちは顔を見合わせて、聞こえてくる声に耳を傾けた。


「ファブラ協定…?蒼龍が皇国に?またなんで…………あぁ、そういうことか。なるほどな。じゃあ、こっちの計画は継続していいんだな?……あぁ、わかった。了解。もう到着する……わかってるよ、実行した日に実験させてみるさ」


 ファブラ協定。その言葉は確か授業で習ったことがある。オリエンスの神パルスの意思との名目で互いのクリスタルの不可侵を定めた協定だ。でも不可侵の定義も曖昧で協定が決定されてから今まで一度も使われたことはない。今になってそれが使われるとは思わなかった。
 でもそれ以外にも私たちを攫った奴の言動が気になる。計画を継続、とか、実行した日がどうとか言っていた。白虎が何かを企んでいるのは明白だけれど、だからといってその企みを知ったとしても今の私にできることは何もない。
 止まっていた籠がまた揺れ始める。それを感じながら私は籠の側面をつついた。



 揺れが収まり、籠に空いている小さな穴から少し光が漏れる。どうやら着いたらしい。
 皇国兵が私たちが入った籠を持ち上げてどこかへ運び出す。扉の開く音がしたあと、籠の施錠が外れる音がした。


「お、3匹か。まぁ上等だな」


 ニヤリと下品な笑みを浮かべる目の前の人物を睨み付ける。二羽のチョコボは私の後ろで怯えていて、何とか二羽を守らなければと使命感に駆られた。目の前にいる皇国兵の手が伸びてくる。


「あ、その一番ちっせぇのむやみやたらに触んないほうがいいですよ。俺、噛まれましたから」
「へぇ、このちびっこ威勢がいいのか。いい研究材料になりそうだ」
「!」


 研究材料?私たちチョコボの研究なんかしてどうするつもりなんだ。
 ふと周りに見渡す。周りには見たこともない機械が沢山あって、他にも瓶詰めにされているモンスターのようなものもあった。ここは皇国の研究施設に間違いない。こいつらはチョコボを一体どんな研究材料にする気だろう。


「薬はまだか?」
「あと2日はかかります」
「2日、か。間に合えばいいが」
「籠から出しておきますか?」
「あぁ、そちらに移しておいてくれ」


 そちらと言われた方に視線を向ける。そこには今私たちが入っている籠より少しばかり大きい格子付きの籠が目に入った。
 あそこに隔離されるのか、と思っていたら皇国兵の腕が私の頭上を通り越した。小さな鳴き声と共に二羽のチョコボが皇国兵の手に捕まる。


「ピーッ!ピーッ!」
「もう鳴いても喚いても誰も助けちゃくれないぜ。諦めな…っつってもチョコボにはわかんねぇか」


 二羽のチョコボが籠の中に収まる。不安そうな表情で私を見るチョコボに胸が苦しくなった。そのあと、次に私を移そうとする皇国兵の手が伸びてきて、私は咄嗟に小さい羽を動かしその手から逃れた。


「あっ!?」
「おい、何やってんだ、早く捕まえろ」


 籠から床に落下した私を猶も捕まえようと伸びてくる手を躱す。皇国兵の足をすり抜け、勢いよく足を蹴って羽を動かした。


「だから早く捕まえ…おい!なにやってんだ!」


 私は棚に飛び移ると、目の前に並べてある瓶を次々に倒していく。ガシャン、ガシャン、と瓶の割れる音と共に研究員の人が悲鳴が聞こえた。


「大事な薬が…っ!早くあいつを捕まえろ!」
「わかってますがすばしっこくて…!」
「これ以上被害が出たらシド様に示しがつかん!この際多少傷付けてもいい!早く捕まえてくれ!」


 銃を構える皇国兵に私は棚を降りて床に着地する。銃口を向けられていることに気付きながら、私は研究員に向かって駆け出した。

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