攫われる



 エースたちは今日、皇国首都に潜入する。新型魔導アーマーを破壊するためだ。もちろん私は一緒に行けるはずもなく魔導院に待機となる。エースがいない間、いつもなら部屋で待っていたけれど、今回はチョコボ牧場で過ごすことになった。


「じゃあ、悪いけどチョコボをよろしく頼むよ」
「おう、任せとけ。お前らも気を付けてな」
「あぁ」


 そう言うエースを見上げていたらふとエースが私の視線に気付いて微笑みを浮かべる。そしてしゃがんで私の頭を指で撫でると「いい子にしてろよ」と言ってチョコボ牧場から出ていった。
 それを見送った私は寂しさで胸が苦しくなる。そんな私の目の前に、二羽の雛チョコボがぬっと現れた。


『やぁ!』
『おはよう!』
『おは…!?』


 目の前にいる二羽の雛チョコボは、この間会ったときより少しだけ大きくなっていて、私の目線が上を向く。体の大きさも私の二倍になっていて驚きのあまり絶句した。


『固まったりして、どうしたの?』
『えっ…あ、え、大きくなった、ね…』
『そうかな?』


 首を傾げるチョコボを呆然と見上げていると、ヒショウがチョコボを呼んだ。駆け出していくチョコボの後ろ姿を見ながら、ふと自分の体に目を移す。
 チョコボが成長するのは当然だろう。あの子たちはいつか朱雀のために戦場を駆け回ったり、町から町へ移動する手段として駆け出されたりするのだ。成長しないチョコボなんていない。
 私もいつか成長しきってしまうんだろうか。そう思いながらあのチョコボたちの後ろを追い掛けた。



 エースたちが出発してどれくらいが経っただろう。日は既に傾いていて、ヒショウもオオバネもツバサもいつの間にか居なくなっていた。三人同時に居なくなるなんて珍しいなと思いつつ、干し草をつつく。


「ピーッ!!」
「!」


 突如牧場に響いたチョコボの声に、慌てて小屋を出る。そこには二羽のチョコボを籠の中に入れている朱雀兵の姿が目に入った。籠の中で鳴き続けるチョコボを見て私は駆け出す。


「大人しくしろ!チッ、ピーピーうるさいな…いってぇ!?」
「ピーッ!」
「なんだぁ?お、まだチビのチョコボいたのか」


 そう言うなり朱雀兵の手が私に伸びてくる。その手に危機感を感じた私は咄嗟に口を開けて指に噛みついた。


「痛っ…んのやろ!」
「ビッ」


 浮遊感と共に体が締め付けられる。手に掴まれているのだと気付くのに時間はかからなかった。
 そいつはチョコボたちの入っている籠に私を投げ入れる。ガシャンという施錠を耳にしながら、二羽のチョコボが心配そうに顔を覗き込んできた。


『大丈夫?』
『うん…大丈夫、キミたちは?』
『ボクたちも大丈夫…ねぇ、この人、ボクたちをどうするつもりなんだろう…』


 不安げに呟くチョコボに私も顔を俯かせる。籠の中は縦長の穴がいくつか空いていて、そこから外を見られることができた。
 その穴から片目を覗かせる。私たちを連れて次にそいつが向かったのは外へと繋がる玄関ゲートだった。どこに連れていくつもりだと首を傾げる。
 外の世界に出て、暫く歩いた後機械の動くような音が耳に入った。外はすっかり闇に染まっていて、穴から覗いても辺りは暗くてよくわからない。でも、その機械の正体を私はなんとなくわかった気がした。


「さて、と。運ぶとするか」


 そう呟かれたと同時に僅かな光までもが遮断された。







「っかしいな…確かに通信で呼び出されたと思ったんだけど」


 頭をかきながらヒショウはエントランスからチョコボ牧場に移動する。チョコボ牧場に着くとヒショウは違和感を覚えた。その違和感に首を捻らせる。そして、自分の足元に朱色の布切れが落ちていることに気付いたヒショウはそれを拾い上げた。


「これってエースのとこのチョコボがしてたような…」


 でも何故地面に落ちているのだろう、とヒショウは首を傾げる。知らず知らずに落としたのかもしれない。そう思い、ヒショウはチョコボを呼んだ。しかし、一向に出てくる気配はない。


「……おかしい」


 いつもならチョコボを呼べばエースのチョコボ以外にも二羽の雛チョコボも出てくるはず。その二羽のチョコボすら出てこないということはチョコボの身に何かがあった証拠だ。
 ヒショウは嫌な予感がしながら、チョコボを呼びつつ小屋の中ひとつひとつ丁寧に探していく。しかし、結局雛チョコボが見つかることはなかった。

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