拾われた子チョコボ
温かい。心地がいい。でも、なんでだろう。
ふ、と目を少し開けると、変な服が目に入った。それを見て、ああ自分はとうとう人間に捕まってしまったのか、と醒めない頭の中で理解する。
微かに開けられる目で周りを見渡してみれば、どうやらまだ外の世界にいるらしい。しかし逃げようにも暴れることができない。
先程、変な兜を被った人間に足を撃たれてしまった。
親が自分を逃がそうと人間の前に立ち塞ぎ、人間を攻撃していた。逃げろ、と目で合図され、ズキズキ痛む足を引き摺って、なんとか草むらに隠れ難を逃れた。身体を震わせながら親が自分のところに帰ってくるのを待っていたが、数日経っても親が自分の元に帰ってくることはなかった。
冷たくなっていく身体に、あぁ死ぬんだな、と目を閉じたまでは覚えてる。
よりによって人間に捕まるなんて。あのまま死んでしまいたかった。きっとこのまま人間は私を実験台にでも使うのだろう。どうせ死んでるも当然なのだから、人間にとっては都合がいいはず。
嫌だなあ、実験台。そう思いながら私は目を閉じた。
「……?」
次に目が覚めたのは、どこかの個室だった。私の身体には布のようなものが被せてある。
周りを見渡してみると、人間が暮らすような作りになっているのがわかった。個室に監禁されたのか、と目を伏せると、ふと足の痛みがないのに気付く。試しに足をクイッと動かしてみた。微かに動く。
――ガチャン
「!」
何かの物音に身体がビクリと跳ねる。物音のした方向にそろりと顔を向けると、そこには目を丸くして立っている人間がいた。
「目が覚めたのか?…よかった」
そう言うと人間は目を細めて安心したかのように笑う。
目が覚めてよかった?なんでそんな言葉が出てくるのか。私には意味がわからなかった。
人間は私に近付き、手をあげる。私は後退りするように足を動かそうともがくが、怪我のせいか上手く動かせない。小さな翼で抵抗しようとばたつかせてみるが、手はどんどん近付いてくる。私は目を思いっきり瞑った。何かされる…!
「足もだいぶ良くなってるな」
そう言うと人間はゆっくりと足を撫でる。拍子抜けした私は目を丸くして、人間を見上げた。
優しそうな眼差しを向ける人間に、私は身体が硬直する。
どうしてそんな目で私を見るの。どうして優しい手つきで足を撫でるの。この人間は一体何がしたいの。
今まで人間と接することはなかったが、親から"人間は恐ろしいもの"と教えられてきた私は、この人間の行動にますます理解ができなかった。
「ほら、これ。食べられそうか?」
人間はそう言いながら、私の好物である、ギザールの野菜を目の前に差し出してきた。
正直、死ぬほどお腹が減っているのだが、このギザールの野菜にはもしかしたら毒が入っているのかもしれない、と考えてしまう。疑惑の目を人間に向けてみたら、人間はふっと笑い、「毒なんか入ってないぞ」と、私の考えを見透かしたように言った。
なんだこの人間。なんで私の考えていたことがわかった。ますますこの人間がわからない。
「………」
「…ここに置いておくから、食べれるなら食べろよ」
新鮮なうちに、と余計な一言を添えたせいで、目の前にあるギザールの野菜がキラキラと輝いているように見えてきてしまった。この人間、やりおる。
人間はしばらくは私をずっと監視していたが、ギザールの野菜を食べようとしないからか、束になった紙に目を移し出した。それを見て、少しだけ警戒心が解ける。そして目の前にあるキラキラ輝いているギザールの野菜に目を向けた。
お腹がグルル、と食を欲しているのがわかる。
(少しだけ。…ほんの少し)
私は自身のくちばしで、そのギザールの野菜を突っついてみる。突っついた拍子に、ふわりとギザールの野菜の香りが鼻をくすぐった。
うっ…これは確かに新鮮なギザールの野菜だ。あの人間、本当に何者なんだ。
ちらりと人間をちら見してみる。どうやら私に興味が削がれたらしい。紙の束に夢中だった。
もしこのギザールの野菜に毒が入っていなかったとしても、どうせここで実験台として薬殺されるに違いない。毒が入っていてもいなくても結局殺されるのだろう。ならば死ぬ前にこのギザールの野菜でも食べて、この空腹感だけでも満たして覚悟を決めようじゃないか。
そう思ったらいてもたってもいられず、私はついに目の前にあるギザールの野菜を勢いよく食べ始める。その様子を、あの人間が微笑を浮かべながら見ていたなんて、夢中になって食べている私は知るよしもなかった。