仲間の証



 授業中、私は窓際に座り日向ぼっこに謹んでいた。太陽の光を背中で受けその心地好さにうとうとしてしまう。こっくりと首が下を向くけれど、ハッと顔をあげて教室全体を見渡す。でもやはり眠気には勝てなくてまた同じことを繰り返す。そうしているうちに授業が終わり、気付けば0組の人達が数人私を囲むように覗き込んでいた。あまりの光景に思わず身体全体が跳ね上がる。


「さっきの仕草めっちゃ可愛くなかった?」
「えぇ、とても愛らしかったです」
「チョコボもわたしたちと同じようにうたた寝するんですね」
「写真撮りたかったなぁ〜」
「授業中に写真は撮れないからな」
「あはは、びっくりして飛び起きちゃったね」


 私の周りにはサイス以外の女の子たちがいて、会話の様子からしてどうやら私がうとうとしていたのを見られていたらしい。エースはどこだろう、と探しているとクラサメ隊長と話をしているエースの姿が目に入った。なるほど、だから女の子たちが集まってきたのかと一人納得する。
 それにしても女の子とはいえ六人に囲まれれば圧倒されるわけで、私は六人を見上げながらここからどう逃げようか思考を巡らせた。その間にも六人は私をじろじろ見つめている。居心地はあまり良くなかった。


「触らせてくれるかなぁ〜?」
「いきなりは駄目ですよ。人見知りだってエースさん言ってたじゃないですか」
「つついたりしたらこの前のナインみたく攻撃されたりして」
「まぁでもいきなり触ったらチョコボもびっくりするんじゃないか」
「そうですね。言葉がわかるみたいなので聞いてみたらどうでしょう?」
「うーん、どう話し掛けたらいいのかな」
「ねぇ、チョコちゃん!」


 ずいっと目の前にシンクの顔が現れる。少しびっくりしたけれど、皆の会話を聞いてそれなりに覚悟を決めた。


「触っていい?」
「…ピィ」
「鳴いた!え、とこれはいいのかなぁ〜?」
「手のひら見せてみれば?乗るかもよ」


 ケイトがそう言うとシンクがおそるおそる両手を私に見せる。ちらりと見上げると皆優しい表情で私を見ていて、胸が暖かくなるのを感じながら一歩踏み出した。


「!わ、」
「お、乗ったぁ!」


 シンクの手の上に乗るとケイトが声をあげる。クイーンやデュース、それにレムとセブンは一瞬目を丸くして、すぐに微笑を浮かべた。シンクを見上げると嬉しそうに笑っている。


「えへへ〜、チョコちゃんかわいい〜!」
「いいなぁ、次アタシね!」
「私も乗せてみたいな」
「わ、わたしも是非…!」


 そう言いながらケイトが両手を出す。皆の嬉しそうな顔が見られることができて、自然と私も嬉しくなる。ケイトの手の中に収まるとケイトの顔がぱぁ、と明るくなった。
 それから私はケイトからレムに、レムからデュースに、デュースからクイーンに、クイーンからセブンに、と手を渡っていく。段々女の子に抵抗がなくなってきた私はセブンの手の中で毛繕いしていると、不意に周りが暗くなった。なんで暗くなったんだと顔を上げたら、ナインの顔が目と鼻の先にいて、思わずつついてしまった。


「いっ、てぇえ!!」
「学習能力ないなぁ、ナイン」
「ナイン!またあなたはチョコボを驚かすような真似をして…」
「てんめぇぇ!」
「ピッー!」
「あっ!」


 ナインの形相に私はセブンの手から落ちる。少し痛かったけれどたいしたことはない。私はナインから逃げるように教室を駆け出した。すると、目の前に女の子の足が現れて反射的に顔を上げる。


「あ?」
「ピ…」


 その人物に思わず固まるけれど、後ろから近付いてくる荒々しい足音に私は彼女の足の後ろに身を隠した。
 振り返ると険しい表情をしたナインが目に映る。


「はぁ…全く騒々しいな。一体どうしたんだよ?」
「こいつがまた俺に攻撃してきたんだよコラァ」
「攻撃って…さっき見てたけどアンタがこいつを驚かせたからだろ」
「そ、そうかもしんねぇけど…!」
「こいつだって悪気があってやったわけじゃないんだからそうカッカすんなって」


 呆れて溜め息を吐くサイスに何も言い返せないのかナインは頭をがしがしと掻いた。サイスの思いがけないフォローに驚きながら、ホッと安堵する。ふと視線を感じて顔を上げるとサイスが私を見ていた。そしてほんの少しだけ、笑ったような気がした。


「今のはナインが悪い」
「げ、キング…」
「そうですよ。この間と同じようなことをするなんて、全くあなたって人は」
「まぁナインも脅かしたくてやったわけじゃないんだから、な?」
「お、おうよ。なんつーか、癖みてぇでよ…」
「その癖直したほうがいいよー。今後のためにもねぇ」
「確かに、直したほうがいいかもな」


 今度はキング、トレイ、エイト、ジャック、マキナ、そしてナインに囲まれる。なんだなんだ、と見渡しているとエイトがサッと私を掬い上げた。
 エースはどこだろう、と辺りを見渡すけれどエースの姿が見当たらない。どこにいったんだとキョロキョロ顔を動かしていると、不意にジャックの声が耳に入った。


「エースならクラサメ隊長に着いてっちゃったよー」
「ピィ…」
「何か頼み事をしていたようですが…」
「そのうち戻ってくるだろうし心配するな」


 そう言ってエイトが私の頭を指で撫でる。置いていかないって言ったばかりなのに、と思いながら撫でられているとマキナがおそるおそる口を開いた。


「あの、さ、俺も触っていいか?」
「なんかその言い方、ちょっと変態チックだよねぇ」
「え!?そ、そうか……」


 項垂れるマキナにジャックが声を出して笑う。それを聞きながらふとキングに目を移すと、キングも私を見ていたのかばっちり目が合ってしまった。
 私を見透かすような眼差しに目が離せなくなる。何となく、本当に何となくだけれどキングは私をただのチョコボだと見ていないような気がした。キングの目はまるで得体の知れない何かを見ているようで、私は一声あげた。


「?、いきなりどうしたんだ?」
「さぁ…。あ、エース」
「!」


 マキナの声に振り返る。エースの姿が目に入ると勢いよく羽ばたいて床に着地し、エースに向かって突進した。エースは私に気付くとしゃがんで手を差し出す。


「悪い、待たせたな」
「ピーッ!」
「オイエース、オメーチョコボ置いて何しにクラサメんとこ行ってたんだよ?」
「ん?あぁ、少しこれをな」


 そう言いながら片方の手に握られていたものを皆の前に見せる。それを見て、私は目を見開いた。皆も同じように目を丸くしてそれを見ている。


「それって…」
「わぁっ、それチョコちゃんに?」
「ねぇエース、早速着けてみてよ!」
「あぁ」


 いつの間に集まってきたのか、シンクとケイトが後ろから覗き込んできた。エースは私を机の上に置き、小さい朱色のマントを私の首に巻いていく。そういえばモーグリもトンベリも朱色の布が巻かれていた。朱色のマントは0組である、証となる。
 着け終わったのかエースの手が離れた。顔を上げるとエースが微笑んでいて、周りを見渡せば皆、エースと同じように微笑みを浮かべていた。


「似合ってるぞ」
「…ピピィ!」


 エースのその言葉に私は大きく返事をした。

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