彼の追憶 2



 作戦は無事に終わり、魔導院に帰った僕は早速チョコボ牧場に足を運んでみたけれど、彼女の姿は見当たらなかった。でも怪我をしたチョコボがいるのを見て、彼女も無事に帰ってこれたんだと安心してその日は寮に帰った。
 次の日、授業が終わるとすぐに僕はチョコボ牧場に向かった。チョコボ牧場に着くと昨日会った彼女の後ろ姿が目に入る。彼女を見つけた瞬間、胸が高鳴った。苦しいようで苦しくない。変な感じだと不思議に思っていたら、不意に彼女が振り返った。また、胸が高鳴る。


「あっ、エース君!」


 彼女は僕の名前を呼んで大きく手を振った。僕はそれに応えることはせず、代わりに彼女にゆっくり近付いていく。にこにこと笑う彼女を見て、何故か僕も嬉しくなった。


「来るの早いな」
「私もさっき来たところだよ。エース君も来るの早いね、まだヒショウさんたち来てないのに」
「…チョコボが気になってさ」


 本当はあんたのことが気になってた、なんて言えるはずがない僕はチョコボを理由にそう口にする。彼女は僕の言葉を聞いて「そうそう」と切り出した。


「昨日のチョコボね、大したことないって。あと数日もしたら走れるだろうって言ってたよ!」
「そうなのか」
「うん!エース君のお陰だよ、本当にありがとう!」


 屈託ない笑顔をする彼女が眩しくて目を細める。ふとヒショウから聞いていたことを思い出して、僕は口を開いた。


「極度の人見知り」
「え?」
「だってヒショウから聞いたけど」


 極度の人見知りって言われるほど、彼女は人見知りじゃない気がする。僕がそう言うと彼女はきょとんとした顔をして、そして少しはにかみながら口を開いた。


「エース君のことはいつも見てたから…かなぁ」
「いつも見てた…?」
「…あっ、ちが、あのね、チョコボ牧場によく来てるなぁって思ってて!」


 そう言う彼女の顔が赤くなっているのに気付いた僕は、彼女が可愛くて思わず笑ってしまった。僕が笑ったことに彼女が怪訝そうに首を傾げる。少しからかいたくなった僕は「それなら」と口を開いた。


「僕も、いつも見てたよ」
「え?」
「チョコボを見るあんたをいつも見てた」
「!?」


 そう言いながら微笑むと彼女の顔はさっきよりも赤みを帯びていく。茹で蛸のように赤くなる彼女を見て、少しからかいすぎたかと心の中で反省した。
 彼女は顔を俯かせて、僕たちの間に沈黙が流れる。でも不思議と気まずさはなかった。
 チョコボの鳴き声を耳にしながら、僕は口を開く。


「チョコボ、好きなのか?」


 僕がそう言うとおそるおそる彼女が顔をあげる。未だ赤い顔の彼女は少し笑みを浮かべて口を開いた。


「…うん。好き」


 その言葉にまた胸が高鳴る。僕に言ったわけじゃないと頭ではわかっているのに、何故か顔が熱くなってきた。僕は慌てて彼女から顔を逸らし「そうか」と呟く。


「エース君も好き?」
「えっ、な、なにが?」
「なにがって、チョコボ」


 くすくす笑う彼女の声を聞きながら僕は慌てて口を開いた。


「あぁ、僕も好きだ」
「…そ、そっかぁ!一緒だねー!」


 彼女が大袈裟に声をあげる。何とか心を落ち着かせた僕はちらりと彼女を見ると、ちょうど彼女と目が合った。お互い見つめ合う。彼女の瞳は昨日と同じ黄色くて、チョコボみたいだと見入っていたら不意に「おーい!」と大きな声が耳に入った。慌てて顔を逸らし、後ろを振り返る。


「よっ、お二人さん」
「…なんでナギがこんなとこにいるんだ?」
「俺の台詞だっての。いつの間にお前ら仲良くなったんだ?」


 ニヤニヤしながら僕たちを見るナギに苛立ちを感じていたら、彼女が慌ててナギに声をかけた。ナギが彼女に振り向くと彼女はナギに何かを渡す。


「これ、頼まれてたノーウィングタグです!」
「お、サンキュー。いやー仕事が早くて助かるわ」
「別に、ついでですから。じゃあ、またね、エース君、失礼します、ナギさん」


 そう言うなり彼女はそそくさとチョコボ牧場を後にする。それを見送った僕はふとナギに視線を移すと、ナギはさっきよりも卑しい笑みを浮かべていた。


「こんなとこで逢い引きが見られるなんてなー」
「逢い引きとか、そんなんじゃない」
「とか言いつつ、顔赤いけど?」
「…赤くない」
「ふ、ははは!面白いな、お前」


 ぐりぐり頭を撫で回すナギに僕は力一杯それを振り払う。モヤモヤした。からかわれたのもあるけれど、彼女とナギが知り合いなのも気に入らなかった。


「そういえば、頼まれてたってノーウィングタグって何のことなんだ?」
「あー、一応極秘だからいくら0組でも教えられねぇなぁ」
「…まさかクリムゾンみたいな危険なことを彼女にやらせているのか?」
「いや?あいつはただクラスの役割であるノーウィングタグを集めてきてもらっただけ。これをどうするかは言えないってこと」
「そういうことか…」


 彼女がクリムゾンに関わっていないことに安堵していると、ナギがニィ、と口の端をあげる。嫌な予感がした僕は踵を返しチョコボ牧場を後にしようとしたが、ナギはそれを許さんとばかりに声をあげた。


「好きなら好きって今のうちに言っておけよー」


 それに返事をすることなく、僕はチョコボ牧場を後にした。


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