彼女との関係



 硝子の向こうにいる誰かを私はじっと見つめる。曇りガラスのせいなのか、はっきりと姿は見えない。


「彼女、まだ目が覚めないのか?」


 ふとエイトの声が耳に入った。エースは私を肩の上に乗せながら「あぁ」と短く返事をする。久し振りにエースの肩に乗った私は自分の顔をエースの頬の下辺りにくっ付けた。こそばゆいのかエースが小さく笑う。


「そういえばエースは彼女とどんな関係なのー?」
「え?ど、どんな関係って言われてもな…」


 ジャックの問いに珍しくエースが吃る。エースの横顔を見ると気恥ずかしいのかはにかんでジャックから目を逸らしていた。その表情に何故か胸がズキッと痛み出す。ジャックはそんなエースを見てニヤニヤと薄笑いを浮かべた。


「まさか恋人だったりして?」
「…恋人なわけないだろ」
「えー?でもエース、顔赤いよー?」
「あんまりからかうなよ、ジャック」


 エイトがジャックを窘めるとジャックは口こそ閉じるが表情はニヤニヤと薄笑いを浮かべたままだった。恋人の言葉に私は硝子の向こうにいるであろう彼女に目を向ける。
 エースと彼女がどんな関係なのか、知りたいようで知りたくない。エースの顔が赤いのかは私からは見えないが、もしジャックの言う通りエースの顔が赤かったとしたら、私はきっと落ち込むだろう。今だって胸がずきずき痛んで仕方ない。自分がチョコボじゃなかったら、なんて考えて私は首を横に振った。
 私ったらなに馬鹿なことを考えてるんだろう。


「ていうかさ、彼女とエースはどう知り合ったの?彼女、確か8組の子だよねぇ?」
「ジャック、詮索するなって」
「だってエイトも気にならない?僕らが初めて彼女を見たときは、エースに背負われて傷を負ってたんだよ?」
「はぁ…彼女とはたまたまチョコボ牧場で知り合っただけだ。恋人とか、そういう間柄じゃない」


 チョコボ牧場で知り合ったんだ、と思いながら私はエースの顔を見る。エースの視線は彼女に向いていた。


「ふーん…でもさぁ恋人じゃないって言うわりにはよくここに来て気にかけてるよねぇ。もしかして彼女のことが好きなの?」
「もうやめろって」


 エイトがまたジャックを窘める。その声音はさっきよりも強く、低かった。エイトに強くたしなめられたジャックは苦笑いしながら「ごめん、つい」と溢す。そんなジャックにエースは呆れたように溜め息を吐いた。


「僕はまだここにいるけど、エイトたちは?」
「オレはチョコボを届けたし、ここにいる意味はないから鍛錬でもしてくるよ。ジャックは?」
「僕はー…とりあえずここから出たいなぁ。苦手だもん、ここの空気」
「ジャックにも苦手なものがあるんだな」
「それさっきもエイトに言われたよ」


 けらけら陽気に笑うジャックにエースがふっと笑う。エイトも優しく微笑んでいて、「じゃあ、またな」と言い踵を返した。ジャックが慌ててエイトを追う。
 二人の姿が無くなると辺りは静けさを取り戻した。硝子に向き合うエースを見て、小さく鳴いてみる。


「ピィ」
「…ん?」
「……ピィ」
「どうした?」


 意味もなく鳴き続ける。色々な感情が渦巻いて、胸が張り裂けそうだった。
 エースの彼女を見る目が、凄く優しい眼差しだとか、エースが彼女のことを話したときのはにかむ表情とか、思い出して落ち込む。名前を呼ぼうにもチョコボだから鳴くことしかできない。慰めようにもこんな体をしているからエースの手を握ることもできない。人間として、エースの近くに居たかった。そう思うと我慢できなくて、エースを呼ぶように鳴くことしかできなかった。
 ピィ、ピィ、と鳴き続ける私にエースの手が伸びる。私を優しく包み込むとエースは落ち着かせるように体を撫でてくれた。


「寂しかったのか?」
「ピィ」
「ごめんな、置いていったりして」
「ピィ」
「もう、置いていったりしないから」


 エースのその言葉に、突然頭のなかで何かがフラッシュバックする。今みたいな表情をするエースの顔が思い浮かんで、そして消えた。意味がわからず呆然とエースを見上げる。今のは一体、何だったんだろう。
 エースは私の体を撫でながら硝子の方に視線を戻し、不意に口を開いた。


「彼女も僕と一緒でチョコボが好きなんだって」
「………」
「チョコボ牧場で会うことが多くてさ。ある出来事が切っ掛けでよく話すようになったんだ」


 エースは彼女との馴れ初めを語る。突然彼女との馴れ初めを話し出すエースに、何故かエースの話を聞かなければならないような、そんな気がした。

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