エースを探しに



 あの後、部屋に戻ったエースは私を箱の中に入れるとベッドの上に横になった。エースの顔が見えなくてもどかしい気持ちになる。エースの様子が気になって鳴いてみたが反応はなかった。段々寂しくなってきて、私は鳴くのをやめてその場に座り込む。
 チョコボ牧場で走り回ったせいか、さっきと同様すぐに眠気が襲ってきた。もうこのまま寝てしまおう。そう思いながら私は目を閉じた。


 気が付いたらチョコボ牧場にいた。あの二羽のチョコボは大人になっていた。二羽のチョコボのうち一羽に誰かが跨がっている。目を凝らして見るとチョコボに跨がっているのはエースだった。嬉しそうなエースの表情を見て安堵する。ふともう一羽のチョコボが私に近付いてくる。いつもと違う目線を不思議に思っていたら、急にチョコボが鳴き声をあげた。


「キミの帰る場所はここだよ」



 ハッとして顔をあげる。目の前に映るのは箱の側面だった。夢を見ていたのか、と思いながらエースのほうに視線を向けるが、そこにエースの姿はない。
 私は箱から飛び出して窓から外を覗く。空はいつの間にか明るくなっていた。


「(もう行っちゃったのかな)」


 いつもならエースが居なくなっていてもそれほど気にしていなかったが、何故か今日だけは無性に気になった。ふと、部屋の扉に視線を向ける。


「!」


 僅かに扉が開いていることに気付き、一目散に駆け出した。扉に近付いていくと、私がちょうどすり抜けられるような隙間ができている。部屋から出ようと足を踏み出したとき、一瞬だけ躊躇ったがどうにかなると信じて私は部屋を抜け出した。
 辺りをキョロキョロと見渡す。だだっ広い廊下に人間がちらほらいて、抜け出したことに後悔するも私はエースを探すために走り出した。
 行き交う人間が私を見て声をあげている。「なんでこんなところにチョコボが?」「わ、雛チョコボがいる!かわいい!」「チョコボ牧場から抜け出してきたのかな」などなど多種多様な反応をする人間が少し面白かった。廊下を走り回っていたらふと聞き覚えのある声が耳に入る。


「あれ?ねぇエイト、あれってエースのチョコボだよねぇ?」


 その声に足を止めて振り返ると、目を丸くするエイトとジャックが目に入った。知り合いに出会えたことに安堵しながら、二人に近付いていく。
 エイトが跪いて手を差し出した。迷わずエイトの手に乗る。


「お前、なんで廊下に?」
「あ、まさかエースを探しに来たとか?」
「ピィ!」


 ジャックの言葉に鳴いて返事をする。まさか返事するとは思わなかったのか、ジャックは口をポカンと開けて呆然としていた。そんなジャックをよそにエイトが首を捻る。


「エースなら今日はまだ見てないな。ジャックは見たか?」
「えっ、あーエースねぇ。残念ながら僕も見てないんだー」


 ごめんね、と謝るジャックに私は項垂れる。どこにいるんだろう、とモヤモヤしているとエイトが「そうだ」と声をあげた。


「エースを探すのオレたちも手伝うよ。な、ジャック」
「ん?まぁちょうど今暇だしねぇ」


 そう言ってくれる二人が心強くて、嬉しさのあまり羽を広げて小さく上下に振る。私の唐突の反応に二人はきょとんとしていたが、やがて笑い始めた。


「あは、あはは、なにその反応!分かり易すぎ!」
「ふっ、お前は本当に素直でかわいいな」


 そう言いながら微笑むエイトはやっぱり少しエースに似ていた。

 それからエイトの手の中に収まりながらエースを探す。エースを探す最中、ジャックが私にちょっかいをかけてきた。伸びてくる指を嘴でつついたり羽ではたき落としたりしているのにジャックは止めようとせず、むしろ面白がってちょっかいをやめなかった。
 その様子を見かねたエイトが呆れたようにジャックに声をかける。


「おいジャック、いい加減止めてやれよ」
「えーだって僕もチョコボに触りたい!なんでエイトの手に乗ってるのー?僕の手にもおいでー」


 そう言いながら手のひらを見せてくるジャックに私はそっぽを向く。これで諦めてくれるだろうと思っていたが、逆効果だった。


「隙あり!」
「あっ!」


 ガシッと体を掴まれ宙に浮く。気付いた時にはジャックの手のひらの上にいて、ジャックはニヤリと笑みを浮かばせた。


「僕の手もなかなか居心地いいでしょー?」
「ぴ、ピィ!」
「うわ、わっ?!ちょ、あいたっ!」


 居心地がいいとかはともかく、いきなり慣れない相手に掴まれた私は混乱して羽をばたつかせる。ジャックに攻撃を仕掛けようとしたがそれどころではなく、私は逃げるようにジャックの腕をかけ上がり、上へ上へと逃げた。ふと柔らかい感触がして足を止める。視線を下に向けると、チョコボと同じ色をしたふさふさした毛があった。


「ぷっ…」
「え、エイト笑うなよー…」


 視線を前に移すとエイトが口に手を抑えながら私を見上げているのが見えて、漸くここはジャックの頭のてっぺんだということに気がつく。思ったより居心地が良くて、私は仕返しだと言わんばかりにここに居座ることにした。
 動かない私にジャックが狼狽える。


「いやいや頭に居座んないでよ!セット乱れちゃうー!」
「ピッ」
「ふっ、ふふ、嫌だってさ」
「えー!?ていうか髪の毛掴まないで!抜けるから!禿げちゃうからー!」
「ピッ」
「諦めろって言ってるみたいだな」
「ピッ、ピピー!」
「エイト、せいかーい!…って言ってるみたい…」
「はは、お前本当に面白いな」


 エイトの笑う顔を見ながら私はジャックの髪の毛を少しだけ引っ張る。あ、抜けちゃった。


「いいいま、ぶちって!ぶちっていったぁあ!」
「ピィ」
「ごめんだってさ」
「はあ…もう、しょうがないなぁ…」

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