チョコボの成長



「っと、エースに少し話があるんだ」
「僕に?」
「あぁ、チョコボのことなんだが…」


 そう言いながらヒショウは私をちらりと見る。私が居ては困る話なのだろうか。首を傾げてエースを見上げると、エースは苦笑して「ちょっとここで待っててくれ」と言い私を地面に下ろした。
 エースは私を置いてヒショウと歩いていく。追いかけたいのを我慢しながらエースの背中を見つめていたら、私の近くに二羽の雛チョコボが鳴き声をあげた。


『ねぇ、キミはどこから来たの?』
『えっ』


 突然チョコボに話し掛けられて驚く私に、二羽のチョコボは楽しそうに羽をパタパタとさせる。チョコボが話し掛けてきたのは確かで、そのチョコボと話せることに驚きを隠せなかった。同じチョコボなのだから話せて当然かもしれない。でも何故かチョコボと話せることに違和感を覚えた。


『ねぇ、聞いてる?』
『う、うん。え、と、あの人に拾われた、んです』


 ちらりと視線をエースに向ける。二羽のチョコボも私と同じように視線を向けていて、『へー!』と声をあげていた。何だか変な感じだ。


『エースはね、いつもここにいるんだよー!』
『いつも?』
『うん!』
『エースの私たちを見る目って凄い優しいよねー』
『うんうん。僕、いっつも遊んでもらってるんだー!』
『そう、なんだ』


 ねー、と二羽のチョコボは仲良く顔を見合わせる。兄弟なのかな、と思いながら眺めていたら一羽のチョコボが『そういえば』と口を開いた。


『今日もあの人いないんだね』
『あの人?』
『キミは知らないの?よくエースと一緒に来る女の子。最近全然見かけないんだよね』
『…女の子』
『その子にもよく遊んでもらったよねー』
『ねー!』


 エースと一緒に来る女の子って誰だろう。きっとチョコボに聞けば色々わかるんだろうけど、何故か聞けなかった。もやもやしながらエースを見つめる。そんな私をよそにチョコボたちは『ね、遊ぼうよ!』と声をかけてきた。


『あ、遊ぶ?』
『うん!遊ぼ!』
『何して?』
『うーん、じゃあ追い掛けっこ!』
『キミが僕たちを捕まえてね!よーい、どん!』


 その声と共に二羽のチョコボは駆け出していく。呆然と見つめる私に、チョコボが振り返って『はやくー!』と促した。なんで追い掛けっこなんかしなくちゃいけないんだと思いつつも私は地面を蹴る。久し振りに走れることが嬉しくて、二羽のチョコボに向かって走り出した。







 ヒショウに呼ばれた僕はチョコボを置いてヒショウに着いていく。独りにして大丈夫だろうか、とちらちらチョコボを見ていたらヒショウが苦笑いしながら「エースは心配性だな」と呟いた。


「心配性って…仕方ないだろ。初めてここに連れてきたし、初めて知らない雛チョコボと触れ合うんだし」
「あのなぁチョコボの社交性意外とすごいんだぞ。見てみろ、もうあんなに仲良くなってる」


 そう言いながら雛チョコボたちを見るヒショウに、つられて僕もチョコボたちを見る。そこには二羽のチョコボにたじたじになってるチョコボがいた。どこをどう見れば仲良くなってるのかわからない。それを微笑みながら眺めるヒショウに溜め息を吐いた。


「で。僕に話ってなんだ?」
「あぁそうだった。あれからあのチョコボを定期的に診てきたんだが、少し気がかりがある」
「気がかり?」


 ヒショウはチョコボを拾ったときから定期的にチョコボの検診をしてくれていた。そのヒショウから、あのチョコボについて気になっていることがあるなんて、チョコボに何か病気でも見つかったのだろうかと眉を寄せる。


「そう顔をしかめるな。病気とかじゃないから」
「じゃあなんなんだ?ヒショウが気になることって」
「あー…成長がな、全く見られないんだ」
「成長が見られない…?」
「あぁ。あのチョコボ、エースに拾われてから随分経つだろう?2、3日置きに検診していたが、拾われた日から全くと言っていいほど成長してないんだ」


 そう言いながらヒショウはチョコボに視線を向ける。僕もチョコボに視線を向けると、いつの間にかチョコボたちは楽しそうに追い掛けっこをしていた。
 確かに、チョコボは成長速度が速い。あの二羽の雛チョコボもあと数日もすればあっという間に立派な大人チョコボに成長するだろう。雛チョコボから大人チョコボの成長過程を今まで何回も見てきたが、拾ってきたチョコボが成長していないと言われるなんて思いもしなかった。しかも拾った日から全く成長していないなんて、何かの病気なのかと疑ってしまう。


「なぁ、本当に病気とかじゃないのか?」
「それはない。調べても至って健康だからな。ただ、何故成長が止まってるのかは俺にもわからない。原因不明なんだ」
「……そうなのか」


 成長をしていないチョコボなんて初めて見た。野生だからか?いや、野生だからといって成長しないわけがない。なら、何が原因で成長しないのだろうか。
 いくら考えたって答えが出るはずもなく僕は肩を落とした。そんな僕の肩をヒショウが軽く叩く。


「まぁ一応あのチョコボの飼育者であるエースには言っておかないと思ってさ。成長については原因不明だが、死に関わる病気になったわけじゃない。気長に待てばいいさ」
「…そうだな。そう思っとくよ」
「おう。あ、あと、あの子は元気か?」


 ヒショウの言葉に僕は目を伏せる。そんな僕見て察したのか、ヒショウは「そうか」と悲しそうな顔で呟いた。

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