チョコボ牧場



 私は授業中、大人しくトンベリとモーグリといることにした。うろちょろしたらエースが怒られるかもしれないと思うと、トンベリのそばにいたほうがエースに迷惑かからなくて済む。トンベリの隣に座り、授業というものを傍観していた。
 耳に入ってくるものは知らない単語ばかり。クラサメの言っていることがわからないのは当然といえば当然だ。私はチョコボなのだから。
 でも、今はチョコボなのが少し悔しい。チョコボだから言葉も話せない、エースの悲しそうな表情を見て慰めることもできない。私のできることといえば、エースの側にいることしかないのだ。
 ちらりとエースのほうを見れば、真剣な表情で目の前の本とにらめっこしていた。


「ナイン」


 静かな教室にクラサメの凛とした声が響く。しかし、呼ばれた本人はクラサメから隠れるように本を立てて机に上半身を伏せていた。それを見たクイーンが、慌ててナインを呼ぶ。


「ナイン、ナイン!あてられていますよ」
「んあ?」


 クイーンに呼ばれたナインが眠そうな顔をあげた。クラサメはナインを真っ直ぐ見つめながら声をかける。


「ナイン、オリエンス4大国を言ってみろ」
「あ?えーと、あれだろ?ブブルムにミテリス王国、それにロ、ロリ連盟!これで4大国だぜコラァ!」


 どうだと言わんばかりのナインに、トレイが小さく息を吐いた。


「4大国なのに3つしかないところには感服しますよ」
「アァン?」
「ぷっ、4大国なんてボクでもわかるクポー」


 モーグリが小さく呟くと、ナインが音を立てて立ち上がった。火に油を注ぐようなことを言ったモーグリに私は感服した。


「んだとコラァ!投げるぞてめぇ!」
「き、聞こえてたクポ?!」
「あはは、僕のところまでバッチリ聞こえたよー」
「ナイン、オリエンス4大国の名前を用紙に100回書いて今日提出しろ」
「はぁ?!100回も書かなくても10回で覚えるっつーの!」


 10回も書かなきゃ覚えられないのだろうか。そう思ったのはきっと私だけではないはずだ。
 ナインはクラサメに抗議したものの聞き入れてもらえず、結局オリエンス4大国の名前を100回書くことが今日の課題になった。

 鐘が鳴ると各々が席を立つ。どうやら授業が終わったらしい。クラサメがトンベリの側に来ると、トンベリは私とモーグリにひとつ頷く。そして歩き出したクラサメの後を追い掛けていった。
 それを見送ったあと私に影が落ちる。反射的に見上げると、エースが微笑みを浮かべながら私の前に屈んだ。


「待たせたか?」


 その言葉に私は首を横に振る。エースが手を差し伸べるのを見て、エースの手に飛び込んだ。エースの手は相変わらず温かい。


「静かにしてて偉かったぞ」
「ピッ」


 当然だ。エースを困らせるわけにはいかないのだから。偉いだろ、とさっきのナインみたいに得意気な顔でエースの顔を見上げた。そんな私にエースは指で頭を撫でる。目を瞑って受け入れていると、マキナがエースの名前を呼んだ。


「エース!チョコボ牧場行かないか?」
「チョコボ牧場、か。うん、行くよ」


 そう言いながらエースは指を離す。チョコボ牧場は野生の私が預けられない場所だ。私も行ってみたいが、預けられない場所に行けるはずがない。だから必然と私は部屋で留守番となる。
 頭を垂れる私を手にエースが歩き出した。今から部屋に戻るのだろうか。そんなことを思いながら成り行きを見守っていると、広いところに出たエースが中央にある変な床の上に乗る。その床に魔力が込められていることはチョコボの私でもわかった。
 そして一瞬、何かに引っ張られるような感覚に咄嗟に目を瞑る。空気が変わったのを感じた私はおそるおそる目を開いた。


「!」


 目の前に広がるのは外界にいた時のような匂いと自然豊かな光景で、まさかこんな場所があるとは思わず唖然となる。すぐ近くにある建物の中に大人のチョコボが見え隠れしていて私は目を見張った。
 チョコボ牧場というからには当然大人のチョコボがいるだろうと思ってはいたけれど、いざ目の当たりにすると本当に人間の手で育てられているのだなと感動すら覚えた。
 ふとエースの足元で小さな鳴き声が耳に入る。エースの手元から顔を覗かせると、私とそう変わらない二羽のチョコボが目に入った。


「相変わらず元気だよな、こいつら」
「あぁ。そうだな」
「ん?あっ、エースとマキナじゃん!今日も来たのか?」
「やぁ、ヒショウ。なんだよ今日もって、来ちゃ行けなかったか?」


 ヒショウ、と言う名前に私は顔を上げる。そこには、私のことを定期的に見に来てくれたあのヒショウが笑みを浮かべながら立っていた。


「チョコボの世話の手伝いしてくれるなら毎日来てくれても俺は構わないぞー」
「エース、俺はツバサのところに行ってくるな」
「無視か!」


 マキナはそう言うとチョコボ牧場の奥へ歩いていく。ヒショウはマキナの背中を見送ったあと、盛大に溜め息を吐いた。そして、顔を私に向ける。


「元気そうだな」
「お陰さまで。連れてきてもよかったか?」
「あぁ、連れてくるくらいなら構わないさ。それにこいつらも興味津々って顔してるし」


 ヒショウは地面に指をさす。そこにはあの二羽の雛チョコボが目を爛爛とさせて私を見上げていた。

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