本性



 緑色のモンスターと目が合う。初めて見るあのモンスターはエースや"隊長"が言っていたトンベリというモンスターだろう。
 トンベリはエースたちと同じような服を身に付けている。服を着ているモンスターも初めて見た。


「!あ、おい…」


 興味が湧いた私はエースの手から降りて机の上に着地する。相手が人間ならともかく、モンスターなら野生で生きてきた頃からよく見てきたのだから警戒心はそれほどない。初めて見るモンスターということもあるけれど、大型モンスターではないトンベリなら大丈夫だと思った。
 机から降りようとするが結構高さがある。こんな小さい翼で飛べるはずもなく、机の上をウロウロするしかなかった。


「…トンベリのところに行きたいのか?」
「ピーッ!」


 エースが私のしたいことを感じ取り、声をかけてきてくれた。私はそうだと言わんばかりに鳴いてアピールする。そんな私を見て、エースは少し考える素振りをしたあと私を手に取り、机から降ろしてくれた。
 エースを見上げるとエースは微笑みを浮かべている。


「行っておいで」
「ピッ」


 エースにそう答えたあと私は振り返った。少し先にあのトンベリというモンスターがいる。トンベリは未だに私をじっと見つめていた。


「トンベリってチョコボと仲良くできるの?」
「さぁ…そもそもトンベリ自体がここにいるのがアウェイですし」
「あのチョコボ、刃物マニアに興味津々って感じだねぇー」
「わたしたちには怯えてたのに自分から近付くってことはやっぱり相手がモンスターだから〜?」
「どうでしょうね。チョコボは本来モンスターの部類には入りませんから」


 ざわざわする皆の声を聞きながら、トンベリに一歩一歩近付いていく。そのトンベリの近くをモーグリが心配そうな顔で私を見ていた。
 トンベリの目の前まで近付く。トンベリは思ったより大きかった。


「ピィ」
「………………」
「ピッ、ピピィ」
「………………」


 チョコボの言うことがトンベリにわかるかわからないけれど、トンベリの目を見ながら話し掛けてみる。しかしトンベリは黙ったままだった。
 私の言葉がわからないのか、それとも聞こえていないのか、どうしていいかわからず首を傾げる。そこに、見兼ねたモーグリが私とトンベリの間に入ってきた。


「トンベリはチョコボのことが気になるらしいクポー」
「ピ?」
「トンベリは喋れないクポ。だからモグが代わりに通訳するクポ」
「………………」
「"キミはどこから来たの"って聞いてるクポ」
「ピッ、ピピーッ」
「………………」
「"じゃあボクと同じだね"って言ってるクポ!」
「!」


 モーグリの言葉に驚き、トンベリを凝視する。まさかトンベリも私と同じ境遇だったなんて思いもよらなかった。
 そんな私に気付いたのか、トンベリは後ろにいる"隊長"のほうに視線を移す。つられて"隊長"のほうに視線を映したら、あの"隊長"が私たちをじっと見つめていた。


「………………」
「"あの人のお陰でボクは助かった"って言ってるクポ。キミが思ってるよりクラサメ隊長は悪い人じゃないから大丈夫クポー!」
「…ピィ」


 "隊長"の名前はクラサメっていうのか。トンベリを拾ったのが本当ならクラサメは悪い人じゃないかもしれない。でも何だか意外だ。
 そう思いながらクラサメを見つめていたら、クラサメは気まずそうに溜め息を吐いた。


「…モーグリ、通訳はもういい。やめてくれ」
「クポ?」
「へぇ〜、トンベリって隊長のお陰で助かったんだぁ〜」
「あの隊長がトンベリを助けたりするなんて意外ー!」
「ふふ、隊長にもそういう一面があるんですね」
「隊長も人の子だったんだな」
「あの隊長が、人助けならぬモンスター助けとはなぁ、意外すぎんだろコラァ」
「あなたたち、失礼ですよ。まぁ確かに意外ではありますが」
「…お前たちは私をなんだと思ってるんだ」
「………………」
「"勘違いされやすいかもしれないけど本当はもっと優しい"」
「モーグリ」
「クポー!ごめんなさいクポー!」


 ギロリと凄むクラサメにモーグリは慌てて手で口をおさえる。口というか鼻をおさえていて、モーグリはどこでどう喋ってるのか気になった。


「隊長」
「なんだ、エース」
「あんたがトンベリを連れているなら僕もチョコボくらい連れててもいいだろ?」
「……はぁ、勝手にしろ。その代わり授業の進行を妨げるようなことがあったらその時は部屋に戻してこい。わかったな?」
「あぁ。約束する」


 エースの返事に顔を向ければ、エースはあの時のように笑みを浮かべた。
 "あの時"?あの時って、いつ?


「追い出されなくてよかったクポ。これからよろしくクポー!」
「………………」
「トンベリも"よろしく"って言ってるクポー」
「…ピィ」


 モーグリに話し掛けられ我に返り慌てて返事をする。"あの時"がいつの時だったか思い出せないのは少し気になったが、あんまり深く考えないようにした。

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