表情が見えない人間



 エースの手の中で身を縮こめながら目を瞑る。私を見ては可愛い可愛い連呼するシンクたちに萎縮してしまい、何もしてないのになんか疲れたような気がした。
 そこへ新たな人間の声が耳に入る。


「エースおはよう…あっ、雛チョコボ!」
「おはようマキナ。この間拾ったって言ってたチョコボだよ」


 マキナ?初めて聞く名前におそるおそる目を開ける。エースを見上げ、視線を辿るとそこには初めて見た人間が二人目に映った。男のほうはマキナ、とエースが言っていた気がする。もう一人の女の人は目を丸くさせて私を見ていた。
 どうしてここの人間は雛チョコボを見ただけで大袈裟に反応するんだろう。人間って不思議な生き物だ。


「うーわぁ…か、可愛いな…」
「レムっちおはよう〜!」
「あ、おはよう、シンク」


 マキナの隣にいるのはレムっち?と言うのか。変わった名前だ。そう思っているとエースが急に私の頭をちょんと小突いてきた。いきなり何をするんだと振り向く。


「僕の前にいるのがマキナ。で、マキナの隣にいるのがレム。二人とも僕らの仲間だ」
「このチョコボはね〜人の言葉がわかるんだって〜」
「へぇ、初めて聞いた」
「そうなんだ、頭良いんだね」


 何故か得意気に話すシンクに、マキナもレムっち…もといレムも、私に興味津々な眼差しを向けている。どう反応すればいいかわからず私も見つめ返していると、マキナが口を開いた。


「なぁエース、触ってもいいか?」
「僕はいいけど…こいつに聞いてくれ」
「え?」
「人見知りなんだ、こいつ」


 そう言いながら私の頭を指で撫でる。頭が少しゆらゆら揺れるのを感じながら、マキナに目線を向けた。
 見た目はナインみたいに恐くないし、むしろ爽やかな感じで好印象だ。それにチョコボのことが好きそうな感じが滲み出ている。なんとなくエースと似てるような気がした。
 マキナは私と目線を合わせながら微笑みを浮かべる。


「触ってもいいかな?」
「……(プイッ)」
「…駄目みたいだ」


 苦笑いするエースに、マキナも苦笑いしながら肩を落とす。悪い人ではないんだろうけど、やっぱり触られるのには抵抗があった。エースとは毎日いるからいいけれど、初対面の人にはまだ無理だった(ちなみにエイトのときは不可抗力だ)


「まぁ仕方ないか…元は野生だったんだよな」
「あぁ。僕も最初はすごい警戒されてたし、そのうち慣れるさ」


 な、とエースは私に視線を移す。なんて答えたらいいのかわからず首を傾げるしかなかった。そのうち慣れるのかもしれないが、どのくらいの期間で慣れるのか私でさえもわからないのだから。それに、私はエースだけで十分だ。


「席につくクポー」


 モーグリの声が部屋に響く。その声にマキナたちはエースから離れ、各々の椅子に座った。一体何が始まるのかと顔をキョロキョロ動かしていると、また扉の開く音が耳に入る。その人間は黙黙と部屋の中を進み、エースたちの真正面にある一際大きな机の前に立った。
 その人間の正体はエースたちとは違う服を身に付けていて、口元が黒い何かで覆われているせいで表情が全くといっていいほど見えない。何かの事情であんなのをしてるのかはたまたただの趣味なのか、私にはわからないが表情が見えない人間ほど怖いものはなかった。
 自然と体が硬直する。それに気付いたのかエースが安心させるかのように体を撫でた。


「おはよう、諸君。では、授業を始め…」
「!」
「…エース、その雛チョコボはどうした」


 すぐに私の存在に気付いた人間がエースに問い掛ける。エースは至って落ち着いた様子で、その人間を真っ直ぐ見つめながら口を開いた。


「任務のとき拾った雛チョコボだ。報告書にも書いたし隊長も見たはずだろ」
「…そういえば報告書にそんなことが書いてあったな。しかし、ここは教室だ。牧場ではない」
「こいつは野生だったから牧場には預けられないんだ」
「そうか、ならば部屋に戻してこい」


 エースと"隊長"という人間のやりとりを聞いてむかむかしてくる。
 あの人間、イヤな感じだ。やっぱり表情が見えない人間にいい人間なんていない。
 そう思いながら睨み付けるようにその人間を見ていると、私の視線に気付いたのかバチンと目があってしまった。うっと少しだけ怯むが負けるもんかと睨み続ける。


「隊長だってトンベリを連れてるだろ」
「トンベリはモンスターだが、チョコボは家畜だ」
「このチョコボは家畜とは違う。確かに普通のチョコボは家畜かもしれないけど、このチョコボは人の言葉を理解して人の気持ちを汲むことができる」
「…だから側に置いておきたい、と言いたいのか?」


 エースの言いたいことを"隊長"はすぐに察したらしい。二人はお互い睨み合ったまま、部屋の中が静まり返る。ふと、エースの言ったトンベリというモンスターはどこにいるのか気になった。
 私は"隊長"のすぐ近くを見渡してみる。すると"隊長"のいる位置から少し離れた場所に緑色のモンスターが私を見つめていた。

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