ひとみしり
「それにしても、このチョコボは大人しいですね」
そう言いながら、目の前にトレイの顔が現れた。キングを見つめていた私の目は、自然とトレイを映す。いきなり現れたトレイの顔に、私は上下に羽をばたつかせた。
私の様子にエースが庇うように、トレイから距離を置かせてくれる。
「あんまり驚かさないでくれ」
「す、すみません…こんなに大人しいチョコボを見るのが初めてでつい」
「人見知りなんだ、こいつ」
「人見知り、ですか?それを言うならチョコボ見知りでは?」
「…それ本気で言っているのですか、トレイ」
やれやれと言った風にクイーンは溜め息をつく。エースを見ると、エースもどう対応したらいいのか困っているようだった。トレイはまだ私のことを見ている。やっぱり男の人は怖い。
「それに綺麗な色をしていますね。普通のチョコボよりも鮮やかな気がします」
「確かに、そう言われてみれば綺麗ですよね」
「牧場のチョコボに失礼だろ」
エースがクイーンとトレイを咎めるように言うと、二人は肩を竦めていた。私はというと、綺麗な色だと言われて少しくすぐったかった。それを悟られぬように毛繕いをする。すると、また扉の開く音がした。
「おっはよー」
「ふわぁ…」
「ケイト、サイス、おはようございます」
「サイス!朝からだらしないですよ!」
扉から入ってきたのは、赤い髪と銀色の髪をした女の人だった。クイーンに叱られたほうがサイスと呼ばれていたから、あの銀色の髪の毛の人がサイスか、と視線を向ける。サイスは顔をしかめて、溜め息を吐いていた。
「朝からうるせぇなー」
「サイス!」
「まぁまぁ、クイーン、落ち着いてって」
クイーンを宥めたのはサイスと呼ばれていない方で、その人がケイトだと理解する。キョロキョロと忙しなく顔を動かす私に、ケイトが私に気付いたらしくこっちに歩み寄ってきた。
「チョコボじゃん!なんでこんなとこにチョコボがいるの?てかめっちゃかわいい!アタシも触りたい!」
笑みを浮かべながら手を出してくるケイトに、身体が強張り身を縮める。いきなり触られるのは苦手だった。エースに触られるのにも随分と時間を要した。いきなり触られたりでもしたら暴れてしまいそうで、私は堪えるように目を瞑る。
「!、エース何するのさ!」
「いきなり触られるの苦手なんだ」
「え、そうなの?!チョコボなのに!?」
「ケイト、怯えてますから…声を抑えて」
「あ、ご、ごめん」
身体を震わせる私に、エースがケイトを止めてくれたらしい。目を瞑っていてその現場を見てはいないが、会話から何となく読み取れた。おそるおそる目を開けると、ケイトは程よい距離にいて、ホッと安堵する。
エースを見上げると、ちょうど目が合い、微笑んでくれた。端正な顔に、思わず見入ってしまう。
「…エース、なんかおかしくない?」
「ケイトもそう思いますか?」
「やはりマザーに…」
「聞こえてるぞ」
ケイトにも言われ、エースは諦めたように肩を落とす。そんな私たちを見兼ねたサイスが、挑発するかのように鼻で笑ったのが耳に入った。自然と視線が声のほうへ向く。
「たかがチョコボじゃねぇか。ていうか、そもそもなんでここにチョコボがいるんだよ」
「…チョコボの世話を頼まれたんだ。こいつは牧場じゃあ、育てられないからって」
「はっ、あたしらは何でも屋かよ」
頬杖をつくサイスに、クイーンは呆れたように首を横に振る。サイスの口振りに、私の中で苦手意識が芽生えた。そんな私を他所に、ケイトが腕を組み口を開く。
「チョコボをここに連れてきても、あいつに間違いなくなんか言われるっしょ」
「隊長もトンベリ連れてきてるだろ」
「あ、確かに!」
ケイトはクイーンとは違い納得したように頷く。トンベリの単語にまた首を傾げた。トンベリとは何なのか、私と同じようなものなのかと想像してみるが、チョコボの形しか浮かび上がってこなかった。
「チョコボとトンベリは何もかも違うでしょう。そもそもトンベリとは…」
「あーアタシ席に戻るわー」
「わたくしも戻りますね」
「トレイ、その話はナインにしてやるといい。昨日トンベリがどうとか、言っていた気がするから」
「あのナインが?!そうですか…ようやくその気になってくれたのですね。わかりました、私に任せてください」
「ああ、よろしく」
トレイが喋りだした途端、クイーンやケイトが離れ、エースも話題を変える。ナインというひとに擦り付けたような気がするが、エースは平然としていたので、きっとナインという人が昨日本当にトンベリのことを言っていたのだろう、と私は思うことにした。