晴れない気持ち


 クイーンの言葉を遮ったのは扉の開く音で、二人の視線は扉のほうへ向いていた。私はエースを見ていたが、新しく聞く声に、視線を扉のほうへ向ける。そこにはエースの髪と似た色をした男の人が二人、目に入った。
 片方は表情が穏やかで、もう片方の表情は厳つい。身体が強ばるのが嫌でもわかった。


「おや?今日は珍しくエースがいますね」
「クイーンと同じこと言うんだな…僕がこんなに早く来るのが、そんなに珍しいことなのか?」
「エースがこんなに早く来ることは今までになかっただろ」
「まぁ…そうだけど」


 不貞腐れるように言うエースを見上げていたら、誰かに見られていることに気付く。視線の先をちらりと見てみると、あの厳つい方の人が私を凝視していた。自分を見られていることに身体が硬直する。


「チョコボ?」
「あの時のチョコボですよ」
「あぁ、なるほど」
「もう大分良さそうですね。でも何故チョコボがここに?」


 厳つい方の人が私を見て言い、クイーンが説明をしてくれたお陰で、厳つい方の人は納得したようだ。もう一人は顎に手を当てて、首を傾げている。二人の口ぶりは私のことを知っているようだった。
 少しだけ身構える私に、エースが何かを感じ取ったのか身体をひと撫でする。


「今顎に手を当ててる人がトレイ。もう一人はキングって言うんだ。僕の仲間だから、大丈夫だよ」
「…チョコボに言ってるのですか?」
「あぁ」


 エースの返事にクイーンは目を丸くさせてエースを見る。トレイとキングも呆然とエースを凝視していた。肝心のエースは何故見られているのかわからないのか、首を傾げている。皆の反応は至極当然だろう。私がもし人間だったら、三人と同じことを思うに違いない。
 人間だったら、なんて考える私もチョコボとして、相当おかしいかもしれない。


「エース、それをチョコボに言って、そのチョコボがそれを理解できると思っているのですか?」
「このチョコボは理解できてるよ」
「その証拠はあるのですか?」
「証拠…」
「そもそもチョコボに人間の言葉を理解できるだなんて、今まで聞いたことがありません。チョコボ関係の書物も全部読破しましたが、そういう事柄は私の記憶にはありませんし、何かの勘違いでは?」
「僕だって、最初は半信半疑だったけど…でも、このチョコボはわかるんだ」
「どうしてそう断言できる?」
「……僕にもよく、わからない」


 首を横に振るエースに、三人は顔を見合わせる。私を見るエースの目は、やっぱり私以外の誰かを見ているようで、もやもやした私はエースの掌をつついた。私を見て欲しかったから。


「いてっ」
「?どうした?」
「いや、ちょっとつつかれただけさ。うん、悪かったよ、ごめんな」
「……なんかエース、おかしくないか?」
「えぇ、わたくしもそう思います」
「マザーに診てもらったほうが良いですね…」
「失礼だな、僕はどこもおかしくなんかない」
「(((そうとは思えない…)))」


 眉間に皺を寄せるエースに、三人は納得していないような表情でエースを見ていた。
 その三人を見ていると、ふとトレイと視線が交わる。トレイは私を見て、ハッと我に返り口を開いた。


「エース、チョコボをこんなところに連れてきてはいけませんよ」
「…トレイはクイーンか?」
「は?」
「いや、なんでもない…。気にしないでくれ」
「は、はぁ……ハッ!エース!気をそらそうと考えていますね?」
「そういうつもりで言ったわけじゃないんだけどな」
「トレイ、わたくしも先ほど、あなたと同じようなことをエースに言ったんです」
「…なるほど。そういうことですか」
「で、エース、チョコボはどうするつもりなんだ?」


 エースは三人からあれやこれや言われ、少なからず苛立っていた。私にはわかる、なんとなくだけれど。同じような質問に、また答えなければならないのか、とエースは思っていると思う。そんな感じがエースから漂ってきた。
 キングの問いにエースは一息つく。


「僕の側に置いておく」
「しかし、チョコボは」
「言いたいことはわかってるよ、大丈夫、隊長に聞いてみるつもりだから」
「それならば、いいのですが…」
「………」


 エースの答えにクイーンやトレイは眉を八の字にさせて、肩を落とす。キングはキングでエースを黙ったまま見つめ、そして私に視線を移した。思わず身体が跳ねてしまう。


「そのチョコボ…」
「ん?」
「…いや、なんでもない」
「そうか?」


 私から目をそらし、キングは一人離れ、椅子に座る。私がなんだって言うんだ、最後まで言ってほしい。そう思っても、言葉を発することができない私は、もどかしい気持ちを抱いたままキングを見つめていた。

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