瞳の奥にうつる影



「そのチョコボどうしたのクポ?」


 モーグリは首を傾げながらエースに問う。エースは私に一度目線を寄越したあと、モーグリへ目線を移した。


「弱ってるところを見つけて拾ったんだ」
「クポー!エースは優しいクポー」
「ピィ!」


 私はモーグリの言葉に同意する。エースは優しくて頼りになるし、何よりチョコボの気持ちがよくわかる心の広い人間だ。こんな私なんかのために拾ってくれるなんて、人間も捨てたものじゃないと考えを改められた。エースには感謝してもしきれない。
 モーグリと同調する私に、エースは照れ臭いのか少しだけはにかんだ。


「珍しいですね、エースが一番だなんて」
「!クイーン、おはよう」
「おはようございます…あら」


 部屋に入ってきたのは長い黒髪の、目に何かしている女の人だった。女の人を間近で見るのは初めてだ。
 エースがクイーンと呼ばれた女の人に振り返る。クイーンはすぐに私に気付いた。目を丸くさせながら、こちらに歩いてくる。


「その子はこの前のチョコボですね。すっかり元気そうで何よりです」
「クイーンおはようクポー」
「はい、おはようございます」


 綺麗に笑うクイーンに私は思わず見とれる。不思議と女の人には警戒心が薄れていた。自分もメスだからだろうか。
 クイーンは私と目が合うと、綺麗な笑みを浮かべた。チョコボの私が言うのもなんだけど、クイーンは美人だと思う。


「かわいいですね」
「…クイーンでもそういうこと思うんだな」
「エース、わたくしをなんだと思っているのですか?」
「いや、別に」


 エースは気まずそうに顔をそらす。クイーンの目にかかってるレンズが光った気がした。首を傾げながらエースを見ると、ちょうど目が合い「クイーンも僕の仲間だよ」と、苦笑気味に言う。クイーンは腰に手を当てて、溜め息をついていた。


「全く…それよりも、こんなところにチョコボを持ってきたのが隊長にバレたら、怒られますよ!」
「隊長だってトンベリを側に置いてるだろ」
「それはそうですけど…いえ、トンベリは隊長の言うことを聞きますし、授業の邪魔も危害も加えないでしょう?」
「チョコボだって僕の言うことを聞くし、授業の邪魔はさせないさ。危害を加えるようなこともさせない」
「でも…」
「それは隊長に話してみないとわからないだろう?」
「…チョコボは普通、牧場にいるはずなんですが」
「こいつは普通のチョコボとは違う。ヒショウも言ってたし、小さいうちは側に置いて育ててくれって」
「はあ…あなたはチョコボのことになると、なんでこう…」


 頭を抑えながらクイーンは言う。隊長って誰のことなんだろう。あと、トンベリのことも気になる。わからない人物を挙げながら会話をするエースたちに、私はまた首を傾げた。
 エースとクイーンの会話を聞いていたモーグリが不意に喋り出す。


「ボクも授業の邪魔はしてないクポー」
「………」
「………」
「な、なんで黙ってるクポ!」
「モーグリは、トンベリやチョコボとはまた違うからな…」
「そうですね。モーグリは意思疏通が可能ですし、トンベリやチョコボは意思疏通ができませんから」
「クポ…」


 自分だけ違う生き物だと遠回しに言われたからか、モーグリは肩をがっくりと落とし項垂れる。その姿に少しだけ同情した。
 エースやクイーンの言う、授業、というものを邪魔してはいけないと理解できた。もともとあまり鳴かない私なら、クイーンの言う授業の邪魔をすることはない。何より、エースが困るようなことはしたくない。


「わたくしは知りませんからね。隊長に断られても」
「あぁ、大丈夫さ」
「…断言できる根拠があるのですか?」
「ない、かな」
「はぁー…」
「やってみなくちゃわからないだろ」
「そうは言いますが…何故そこまでチョコボに肩入れするんです?牧場のチョコボとそう変わりないでしょう?」


 クイーンは怪訝そうにエースに問う。確かに私のことを買いかぶりすぎだとは思う。エースの言うことを理解できるとはいっても、そこまでして私を評価する理由がわからない。チョコボが好きなだけでここまでしないだろう。
 エースはきょとんとした顔をしたあと、私を見て微笑みながら口を開いた。


「似てるからかな」
「似てる…?誰とです?」
「なんか放っておけないんだ。それに、見てないと知らないうちにいなくなるような気がして」
「…エース、あなたまさか…」


 クイーンが言いかけた言葉を遮るように部屋の扉が開く。その音に、エースやクイーンは会話をやめて扉の方へと目を向けるが、私はエースを見上げて首を傾げていた。
 エースのさっきの発言は、一体誰のことを指しているのだろう。

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