∴ ひとつだけの傘のした








なまえは只今絶賛部活中のジャックを待っていた。ジャックはバンドをやっていてその中でもドラムを担当している。真剣に部活に取り組むジャックをスタジオの外から見守る。バンド練習用のスタジオがある学校なんてここくらいだろう。



「…かっこいいなぁ」



ポツリと自然に出る言葉に偽りはない。自分はどれだけジャックが好きなんだと1人恥ずかしくなり、それを隠すかのように窓へ目を向けた。



「…あ」



窓ガラスは濡れていて、雨が降っているんだとすぐに気付く。そういえば今日ずっと曇りだったっけ、そう思いながら鞄の中にある折り畳み傘を取り出した。
よかった、いつも常備しておいて。



「お疲れー」

「あ、お疲れ様」



ジャックとキングとトレイがスタジオから出てくる。キングとトレイからお前らいつもラブラブだな羨ましいという小言を軽く受け流し、ジャックの元へと駆け寄る。



「雨、降ってるよ」

「え、マジー?」

「あー俺傘忘れたわ」

「私持ってますよ。入れてあげましょうか?」

「…女ならともかく、野郎とひとつの傘に入れるか!」



なまえの言葉にジャック、キング、トレイが反応する。確かに男同士がひとつの傘に入ってるところなんて、誰にも見られたくないだろう。ジャックはそれを聞いて残念だねぇと暢気に言っていた。キングは溜め息をつきなまえとジャックにじゃあなと言い、トレイと共にスタジオから出ていった。



「僕らも帰ろうかぁ」

「そだね」



ジャックは自分の鞄を持ち、何も持っていない方の手でなまえの手を取る。なまえは鞄を肩にかけて折り畳み傘を手にスタジオを後にした。
下駄箱に着くと2人はお互いの靴を取りに一旦離れ、靴を履いて合流する。その時ジャックはすぐになまえの手を取る。だいたいいつもジャックはなまえの手を握っていた。今ではそれが当たり前だと思うようにまでなってしまった。慣れって怖い。
外は大雨ではないもののそれなりに降っていた。



「折り畳みだから濡れるかも」

「そんなん気にしないよー。なまえがいつも傘を常備してるお陰で、僕は傘持ってこなくてもいいからすごい助かるー」

「えー私すごい利用されてるー」

「いやいや利用じゃないって!」



なまえはじと目でジャックを見るとジャックは慌てて弁解を述べる。



「ひとつの傘ならなまえとくっついていられるでしょ?」

「…ひとつの傘に2人も入るの窮屈なんだけど」

「わかってないなぁ!あのね、僕はなまえと相合い傘がしたいの」



だから自分の傘は持ってこないと言うジャックに、なまえは恥ずかしくなりジャックから逃げるように折り畳み傘を広げた。ジャックはその折り畳み傘を僕が持つから、となまえから傘を受け取る。



「じゃ行こっか」

「うん、ありがとジャック」



お礼を言うなまえにジャックは満足そうに笑いどういたしましてと返す。ジャックはなまえがあまり濡れないように、傘を少しだけなまえ側に傾けて歩き出した。



「これからも雨のときはよろしくねぇ」

「はいはい」



少し歩いたところでキングとトレイが傘を奪い合っているのを2人は目撃してしまったのだった。

(2012/1/21)
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