∴ 夜空の下で


魔導院祭が始まった。白虎や蒼龍、玄武との交流を深めるための祭りが朱雀で催されたのだ。
各クラスで出店を開いたり、有志が集まって何かをしたりと魔導院祭はそれなりに盛り上がりを見せていた。
そんな中、なまえは魔導院内を駆け回る。彼を見つけるために。


「はぁ、はぁ…もう、どこにいるんだろ…」


エントランスや噴水広場、リフレッシュルームにサロン、彼が居そうな場所すべてを回ってみたが見つからなかった。
一度、教室に戻ろうと踵を返す。教室に入ると、エースの姿が目に入った。


「エース!」
「?どうしたんだ、そんなに慌てて」
「ジャック見なかった?」
「ジャック?あぁ、そういえばさっきここに来たけど」
「ありがと!」
「あ、ちょ…」


エースの言葉を最後まで聞かずに教室から出ていく。なまえを見送ったエースは呆れるように腰に手を当てて呟いた。


「全く、何してるんだあいつら…」


人の話を最後まで聞けと教わらなかったのか、そう思いながら溜め息を吐いた。

教室から出たなまえは噴水広場へと向かう。すれ違う生徒の中でジャックを探しながらさ迷っていると、女子生徒たちに声をかけているキングとトレイが目に入った。
女子生徒たちはキングとトレイを冷たい目で見ていて、こそこそしながら二人から遠ざかる。それを見送ったキングとトレイの表情は、酷く歪んでいた。


「…これで何回目だ」
「32回目ですね」


そんなに声をかけていたのか、と唖然とするなまえに、キングがなまえの存在に気付き眉を寄せる。


「ジャックならここに居ないぞ」
「えっ?!ま、まだ何も言ってないんだけど…」
「言わなくても予想はつきます。それと、ジャックならサロンに向かいましたよ」
「あ、そ、そう…」


ありがとう、と小さな声でお礼を言ったあとなまえは二人から逃げるように噴水広場を後にした。
なまえが居なくなったあと、キングは溜め息を吐いて腕を組む。


「なんであいつがモテるかわからんな」
「同感です」


そう頷いたトレイは、エントランスから出てくる女子生徒に視線を向け、キングは玄関ゲートから戻ってくる女子生徒に視線を向けた。

キングとトレイに言われた通り、サロンにやってきたがジャックの姿は見当たらなかった。代わりにセブンとケイトがいて、二人は息切れしているなまえをきょとんとした顔で見つめていた。


「なまえ、どしたの?」
「はぁ、ケ、ケイト、ジャック、見なかった…?」
「ジャックならさっき来たがすぐ出ていったぞ」


セブンの言葉になまえは項垂れる。そんななまえにケイトとセブンは顔を見合わせた。


「ジャックのこと探してんの?」
「うん…でも全然捕まらなくて…」
「ジャックもなまえのこと探してるとか言っていたな」
「え…」
「あー言ってた言ってた。すっごい慌ててたよねー」


ケイトの言葉に居ても立ってもいられず、なまえは慌ててサロンを後にする。サロンから颯爽と消えたなまえに、ケイトとセブンは首を傾げた。


「二人とも何であんなに慌ててるんだろ?」
「…そういえばさっきジャックが来たとき後夜祭がどうとか言ってなかったか?」
「後夜祭?あぁ、後夜祭のダンス、なまえと組むために探してるって言ってたわ、確か」


おそらくなまえもそのためにジャックを探してるのでは?とセブンが言うとケイトはなるほど、と手のひらをグーでポンと叩いて納得するのだった。

そのあともテラスやチョコボ牧場、武装研究所に墓地とジャックを探し回ったが結局見つからず、なまえは途方に暮れていた。そういえば裏庭を見ていなかったことに気付き、教室から裏庭に続く扉を開ける。


「いない、かぁ」


裏庭には人の気配すらなく、なまえは力なく裏庭にあるベンチに腰をかけた。ふと空を見上げる。いつの間にか日は暮れていて、星が2つほど見えていた。
ジャックも私を探していたと言っていたけど、もう探すの諦めて、エントランスで誰かとダンスを踊っているかもしれない。そう思うと瞼が熱くなってきた。
唇を噛んでぐっと涙を堪える。すると、不意に裏庭の扉が開く音が耳に入った。


「!あ…」
「あっ!やっと見つけたー!」


扉から現れたのはなまえがずっと探し回っていた張本人で、ジャックもなまえを見て大きく声をあげる。なまえは呆然とジャックを見つめていると、ジャックはなまえに駆け寄ってきてなまえの手をとった。


「ダンスの相手は?!」
「えっ」
「あ、えと、ダンスの相手!えーと、後夜祭で踊る人、なまえは誰かと踊る予定は、あるのかなって」


途切れ途切れに言うジャックに、なまえは目を丸くさせる。少し息を切らしている様子を見て、自分をずっと探していたのかと思うと胸が締め付けられた。


「い、ない…」
「へ?」
「踊る相手、いないよ」
「!本当?」
「うん、…私、ジャックと踊りたくてずっと、探してた」


なまえがはにかみながらそう言うと、ジャックは目を見開く。何も言わないジャックにハッと自分の言った言葉を思い返して、なまえは恥ずかしくなり顔を俯かせた。
不意に、手をぐっと引かれる。突然のことに反応できず、気付いたらジャックに抱き締められていた。


「えっ、ジャ、ジャック?」
「ごめん、急に…でもその、う、嬉しくて」
「…うん」
「ずっと探してたんだよ、僕も。全然見つからなくて凄い焦った」
「ふふふ、私も」
「あー…なまえ」


優しく肩を掴み、少しだけジャックとの間に隙間が生まれる。おそるおそるジャックを見上げると、ジャックは頬を赤く染めながら真剣な表情でなまえを見つめていた。
なまえはドキリと心臓が跳ねる。


「僕、なまえのことが好き」
「!」
「僕と、踊ってくれますか?」
「…は、い。こちらこそ、お願いします」


なまえがそう言うと、ジャックはみるみる笑顔になり、また強くなまえを抱き締めた。なまえもそれに応えるようにジャックの背中に腕を回す。

裏庭から見える2つの星は、ふたりを表すかのように寄り添い輝いていた。

(2014/5/28)
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