∴ 「愛してる」を愛してる



「なまえ〜…」
「うぅ、ジャック苦しい…」


そう言いながらも抱き締め返してくれるなまえが愛しくて、胸の奥がキューとして、顔がにやけてくる。休日の今日は、1日こうしてずっと一緒にいることにした。
最近、テストやら、文化祭やら、体育祭やらで、あんまりなまえに触れなかった反動が今すごく来てるのか自分を抑えきれなかった。なまえを自分の部屋に呼んで、なまえが来てすぐに僕はベッドに押し倒し、来てからずっと抱き締めている。
そんな僕を、なまえは拒むことなくこうして受け入れてくれていた。


「はぁ、もうずーっとなまえと一緒に居たいよー…」
「ん、私もだよー」
「ほんとにー?」
「ほんとほんと…ジャックのこと、好きだからねぇ」
「うへへ…声小さくなってるよー?」


ジャックのこと、辺りから徐々に声が小さくなるなまえが可愛くて仕方ない。恥ずかしいのか顔を隠そうと僕に抱きついてくる。そんな姿もまた可愛い。
もう好きを通り越して愛してるの域だ。ふとそう思って僕は気付く。"愛してる"なんて、今まで言ったことがないと。
好きだよ、とは今までに何回、何十回も言っているけど、愛してる、は今まで言ったことがなかった。
愛してるって言ったら、なまえはどんな顔をするのかな。そう思った僕はなまえに話し掛ける。


「なまえ」
「ん?」
「………」
「?」


愛してる、と伝えようとするけど何故か口からその言葉が出てこない。出そうとしても、どうしてか言葉に詰まってしまう。
好きだよ、は言えるのに、愛してる、と言うのがこんなにも恥ずかしいものなのかと、自身の顔に熱が集まるのを感じながら、なまえを抱き締める力を強くした。


「どしたの?」
「んーん…」
「…変なの」
「んー…」


僕の顔を見ようとするのがわかって、僕は顔を見せまいとなまえの頭を押さえる。なまえは首を傾げるが、無理矢理見ようとはしてこなかった。今こんな顔を見られたりでもしたら、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。


「はぁ…」
「さっきからどうかしたの?」
「いや…僕ってほんとヘタレだなって…」
「ヘタレ?」
「うーん…うん、よし」


意を決した僕はなまえと顔を合わせる。僕の顔が赤くなってるのに気付いたのか、なまえは目を開いて、心配そうな表情になりながら小首を傾げた。


「なまえ…」
「はい…?」
「あっ…」
「あ?」
「あい、愛して、る…」
「………」


きっと今、僕の顔は真っ赤に染まっているだろう。なまえから目をそらし、恥ずかしさのあまりまたなまえを強く抱き締める。
"好き"と"愛してる"とではこんなにも違う。どうして"好き"は何度でも言えるのに、"愛してる"は何度も言えないんだろう。


「ごめ、今のやっぱなしで…」
「わた、私も…あ、愛してるよっ」


少し早口になりながら言うなまえに、僕はまた胸がキューってなって、気付けばなまえの唇に噛み付くように口付けた。

そっか、"好き"は家族、仲間、友達でも共通として言えるけど、"愛してる"は一番大切なひとにしか言えないから、こんなにも恥ずかしいんだ。こんな簡単なことに気付けないなんて。
そう思いながら僕は、目の前で顔を真っ赤にさせている最愛のひとに向けて、口を開く。

「愛してる」を愛してる。


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