∴ ぬいぐるみごっこ





片手にモーグリの人形を持ちなまえを探す。この人形はついこの間、キングとトレイと一緒にゲーセンに行きクレーンゲームで取ったものだ。なまえはモーグリが好きだと聞いていたのでたまたま見かけたとき、なまえにあげたくてトレイにダメ出しをされながら何回も粘って、やっと取ることができた。喜んでくれるかな、と思いながらなまえを探しているところだ。



「おっかしいなぁ…」



教室、リフレ、サロン、クリスタリウム、なまえが居そうな場所を全部回ってみたがなまえの姿は全く見当たらなかった。一旦教室に戻ってケイトに話し掛けてみる。あれ、そういえばケイト今日一人なんだ。



「ケイトー」
「ん?あぁ、ジャックか。どうかしたの?」
「なまえ知らない?」
「なまえ…?…ごめん、知らないわ」
「そっかぁ…」



なまえの名前を言うとケイトは明らかに寂しそうな顔をした。そんなケイトに首を傾げるも、あんまり深く追求はしないほうがいいと判断した僕は、ありがとう、とだけ言いその場を後にした。



「うーん…あと行ってないところは」



あとはテラス、くらいか。そう呟いた僕は急いでテラスへと向かった。













テラスへ着くと、テラスのベンチに座っているなまえの後ろ姿が目に入る。やっと見つかったことにホッと安堵の息を吐き、なまえにそうっと近付く。



「…はぁ」
「!」



なまえの溜め息に僕は立ち止まり、咄嗟に壁側に寄ってなまえの後ろ姿を見つめる。なんだか後ろ姿から哀愁が漂っているようにも見えるのは気のせいだろうか。



「早く謝らなきゃなぁ…」
「(謝る…?どうしたんだろう…)」



自身に言い聞かせるようにそう呟いたなまえに、頭を捻る。喧嘩だろうか。だとしたら誰と?自分は喧嘩した覚えはない。他の人だろうか。そう考えていると、ふとケイトの顔が頭の中に浮かび上がってきた。ケイトも何だか元気がなさそうだったし、なまえといつも一緒だったのに今日は一緒にいないなんておかしい。



「(…でも、確信はないし…)」



こういうとき、自分はなまえのために何かできないか考える。ふと左手を見るとそこにはなまえのためにとったモーグリの人形がボクを使ってと言わんばかりに自分を見つめていた。
僕自身が話を聞こうとするときっとなまえは自分には心配させまいと何もなかったように取り繕うかもしれない。だけどなまえの好きなモーグリなら、話してくれるかも。と、何だか幼稚な気がしないでもないがやってみようと、僕はなまえから死角になる場所に行き、モーグリだけをなまえの見えるところに出す。
照れるな、やれる、僕ならやれる!



「…なまえ、」
「!ジャ、ック…?」
「ぼ、僕はジャックじゃないクポ、モーグリクポー」



顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。モーグリに似せるために裏声を出してみてはいるがもう見破られてしまった。なまえに話しかけたからにはもう自分はモーグリになりきるしかない。なまえは僕だとわかっているとして、どう返してくれるのだろうか。



「…ふふ、モーグリ、どうしたの?」
「!あ、えーっと、僕、なまえのこと探してたんだ!…クポ!」



こんなとこなまえ以外に見せられない。もしキングやトレイに見られたら一生ネタにされるに違いないだろう。そんなことを思っていると、なまえがポツリと呟いた。



「モーグリ…」
「ど、どうしたクポ?なんか元気ないクポ…僕でよかったら話聞くクポ!」
「…ありがと、じゃあ、お言葉に甘えて」



コホン、とひとつ咳をしてなまえは話し始めた。



「あのね、昨日ちょっとケイトと言い合いになっちゃって…」
「…なんで言い合いになっちゃったのクポ?」



なんか変な言い方になってしまったが、もう言い直さず続けることにした。



「それはちょっと、ジャック…じゃなかった、モーグリには言えないけど」
「えっあ、そ、そっか…クポ…」



内心ショックを受けるがなまえが言えないというならしょうがない。



「ケイトったらバカにするんだよ?そりゃ確かに私も少し言い過ぎだったかもしれないけど、でもちょっとカチンときちゃって」
「ふむふむ、クポ」
「それでそのまま喧嘩別れしちゃって…朝も、どう接したらいいかわかんなくて」



弱々しいなまえの声に、今すぐにでも抱き締めて安心させたいと思った。でも今は自分はモーグリで、なまえも僕ではなくモーグリに相談している、はず。
どうすればいいかなぁ、と呟くなまえに僕はさっき会ったケイトの顔が浮かび上がった。



「ケイトもきっとどうしたらいいかわからないと思うクポ」
「…そうかなぁ…」
「そうクポ!さっきケイトに会ったクポ。そのとき僕がなまえ知らないかって聞いたら、すごく寂しそうな顔したクポ。なまえのこと、心配してるんだと思うクポ!」
「………」
「一緒にいれば喧嘩だってするクポ。問題は仲直りできるかどうかだクポ。このままずっとどっちかが歩み寄らなかったら、将来絶対後悔すると思うクポ」
「…うん」
「きっとケイトもなまえのこと探してるクポー!早く行って安心させてあげるといいクポ!」
「うん…ありがと、ジャック!」
「!」



小さな衝撃と共になまえの身体が僕の目の前に現れる。ゆっくり下を俯くと、なまえが僕にしがみついていて抱き締められていることに今気付いた。少しだけギュッと抱き着くとなまえはパッと離れ、小さく笑って行ってきます、と呟いた。



「あ、い、行ってらっしゃい…」



呆然としながらなまえを見送る。一瞬の出来事すぎて何もできなかった。我に返ると、左手に違和感を覚える。



「あれ…?」



握られていたはずのモーグリの人形が消えていたのだった。





(あのときのジャック、すっごいかわいかったなぁ)
(も、もうやめてってー!顔から火が出るほど恥ずかしかったんだからぁー!)
(えーでも私、すっごい嬉しかったよ。またやってね、ジャックモーグリさん)
(なんか面白そうな話しているな)
(是非詳しく教えてもらいたいのですが)
(ぎゃー!だめ、絶対だめー!!)



(2012/7/15)
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