∴ 突然の雨とバスタオル






なまえはジャックの部活が終わるまでクリスタリウムで時間を潰していた。一冊の本を読み終わりふと窓へと視線を移す。朝はあんなに晴れていたのにいつの間にかどんよりと曇り空になっていた。黒い雲を見てなまえは一雨来るかも、と思っていたら突然目の前が真っ暗に覆われる。



「だーれだ!」
「…ジャック」
「ピンポーン、大正解!」
「声でわかるよ」



苦笑混じりにそう返せば、目の前が明るくなる。振り返るとジャックがニコニコしながら立っていた。



「嬉しそうだね、何かいいことあったの?」
「うんうん!あのね、今度の文化祭でバンドすることになったんだー!」
「そうなんだ、よかったね!」
「へへー、なまえは絶対見に来てね!」
「もちろん!見に行く見に行く」



ジャックの笑顔に思わずなまえも笑顔になる。好きな人が嬉しそうだと一緒にいるこちらまで嬉しくなってしまう。なまえは腰を上げ、ジャックに帰ろうかと促すとジャックは元気良く返事をして当たり前のようになまえの右手を握った。











「でね、キングったら失礼なこと言うんだよー」
「あはは、ほんと困った人だねー」
「でしょー?なまえも言ってやってよー」
「うーん、私が言ったところでねぇ……ん?」



なまえの鼻の頭に何かが落ちてきた。ジャックはどうしたの?と首を傾げてなまえの顔を覗き込む。



「雨、降ってきちゃったかもね」
「えぇ!?僕、傘持ってないー…なまえは?」
「ごめん、私も…酷くなる前に帰らなきゃね」



そう言うとジャックは少し残念そうな顔をして、そうだねぇ、と呟く。すぐに酷くはならないと思った二人は歩く速度を少しだけ速くした。しかしなまえに落ちた雨粒を筆頭に、大きな雨粒がぽつぽつと降ってきてあっという間にザーザーの雨に変わった。



「ああーもう、いきなり降ってくんなよー!」
「つめたっ」



ジャックはなまえの手を引いて走る。雨に打たれながらやっとのことでなまえの家に着いた。



「気持ち悪いー」
「だね…あ、バスタオル持ってくるよ」
「え、あ、そんなんいいってー」
「でもそのまんまだと風邪引いちゃうし…上がって上がって」
「んー…じゃあ、お邪魔しまーす…」



なまえは家に入り、浴室からバスタオルを持ってジャックに渡す。ジャックはそれを受け取り、頭や身体を拭きながら靴を脱ぎ家に上がった。なまえに視線を移すと、夏服の上から薄く下着のようなシルエットが目に入る。それを見てジャックは顔に熱が集まるのを感じた。そんなジャックに気付かないなまえは、ジャックの濡れた姿を見て口を開く。




「シャワー浴びる?」
「…えっ!?い、いや、でもさぁ、なまえも濡れてる、し、ぼ、僕すぐ帰るから」
「今お邪魔しますって言ったじゃん。遠慮しないで、ほら」



苦笑しながらなまえはジャックの手を引っ張る。ジャックはジャックでなまえの格好とシャワーの言葉に身体中が熱くなった。



「いいいや、なまえもぬぬ濡れてるし先に入って、」
「私は着替えるからいいよ。ジャックがシャワー浴びてる間、着替え探しておくから」
「えええ!?」



慌てふためくジャックに、なまえは眉を潜める。そしてよくよく見れば、ジャックの顔は赤く染まっていてなまえはまさか、と思いジャックのおでこに手をあてた。



「?!」
「顔、赤いね…んーやっぱ手じゃわかんないや、体温計あるから計ろう?」
「えっ、や、あの…!」



近くにいるなまえに、ジャックは目を大きく開かせて、このままじゃ理性が、と思ったジャックはなまえの両肩を掴んで自分から距離を少し離した。



「?どしたの、ジャック」
「あ、あの、さ…ぼ、僕、このままじゃ」



理性が、保てそうにない。

そう呟けばなまえはジャックを凝視し、そしてボボボ、という効果音がつきそうな程、すぐに顔を赤く染める。ジャックは顔を俯かせ、なまえは顔を赤くしたまま固まってしまった。



「…そ、その、僕、やっぱりかえ」
「じゃ、ジャック!」



突然自分の名前を呼ばれ、ジャックはゆっくり顔を上げる。目の前にはこれでもかというくらい顔を赤くしたなまえがいて、ジャックの中に何かがグッと込み上げてきた。それを何とか抑えながら、なに?と返事をする。



「えぇっと…その…わ、私…ジャック、なら、い、嫌じゃない、し…」
「!」



それを聞いてジャックは生唾を飲み込む。なまえは目を泳がせながら、でも、と続けた。



「と、とりあえず、シャワー浴びてきて?風邪引かないうちに、ね?」



そう言って、なまえはジャックの背後にまわり背中を押す。返事をする暇もなく浴室へと押し込まれ、扉を閉められた。ジャックはなまえと離れられたことに安堵の息を吐く。あのままだったら確実に押し倒していた。



「……だらしない顔…」



鏡を見てそう呟くジャックの顔は、なまえに負けないくらい真っ赤に染まっていた。



「ジャック」
「!な、なに?」
「ぬ、濡れた制服、洗濯かごに入れておいて。洗って乾燥機かけるから」
「あ、ありがとー」



ぺたぺたとなまえが浴室の前からいなくなったのを確認してジャックはベタベタになった服を脱ぎ、洗濯かごに入れる。なんだか新婚さんみたいだ、なんて思ったら自然と顔がにやけてしまう。ハッと我に返ったジャックは、シャワーから出た後のことを考え、気持ちを落ち着かせるために冷水を浴びた。



(今日、僕は男になります…!)



シャワーから出たあと、男物のTシャツとズボンを履きリビングへと向かうとなまえの母が笑顔でジャックを迎えてくれるのだった。



(災難だったわねー、あ、制服乾くまでゆっくりしていってね)
(はい、ありがとうございます…(まさか、こんなオチだとは…!))
(な、なんか、ごめんね、ジャック…)
(え!?いやいや、全然気にしてないから!)



(2012/6/13)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -