∴ 嫌われたのかと思った





最近、なまえさんとよく目が合う。偶然なのか必然なのかはたまた運命なのか、もう1日に何十回と言っていいほどよく目が合う。ただ目が合うのはいいんだけど、目が合ったと思ったらすぐそらされる。照れてるのかなぁ、と上機嫌でキングやトレイに溢していると、何故か二人は不憫な眼差しを僕に向けてきた。



「お前脳内お花畑だな」
「え!?」
「えぇ、本当かわいそうな頭ですね」
「えぇ!?なんで!?」



二人はジト目で僕を見る。どうして二人にこんな好き勝手言われなければならないのか。あ、さては羨ましいんだなぁー!と声をあげれば、また二人は不憫な眼差しを向けて口を開いた。



「お前やっぱり脳内お花畑だな」
「え?!」
「えぇ、もうこれは治しようがないですね」
「デジャヴ!」



同じやり取りをする二人に僕は撃沈した。そんななか、キングが僕の肩に手を置く。



「最近、なまえと目が合うって言ってたよな」
「いや最近じゃなくてたった今言ってたんですけど!」
「ジャック、目が合うタイミングはいつのときでしょうか?」
「へ…?え、えーと…」



目が合うタイミング?そんなタイミングになんの関係があるんだろうか。トレイにそう言われ、目が合うタイミングの場面を思い出す。えーと、昨日はキングとトレイがリフレでナンパしてるときに目が合ったような…あとキングとトレイがサロンで女の子を口説いてるときにも目が合ったなぁー…あ、キングとトレイが女の子の更衣室覗こうとしてたときにも目が合った気がする。



「………ん?」
「どうです?思い出しました?」
「ん?…ん〜〜〜!?え、ちょ、えぇ!?」



待って、いや、待った。今まで目が合ってきたのはキングとトレイが女の子を口説いてる場面のときにしか目が合っていない!?そんなことない、と思って記憶を辿るがなかなか見つからない。そんな焦る僕に、キングが悪魔のように囁いた。



「あれは幻滅の眼差しだったんだよ」
「げんっ…!?」
「なまえさんはあなたを、女タラシだと思っているのですよ」
「タラシ!?キングやトレイじゃあるまいし!」
「じゃあなんで俺たちが女を口説いてるときにしか目が合わないんだ?」
「そ、それは…!」
「私たちの行動に、なまえさんは引いているのですよ…」
「……っ」



二人の言葉がズドンズドンと胸に突き刺さる。そんな、まさか、目が合っていたのは僕が好きだからじゃなくて、女タラシだと思われてるから?そうだとしたら…僕…なまえさんに…き、嫌われ、て。



「うわぁー!嫌だぁー!」
「!おい!?」
「ジャック?!」



僕は叫び部室を飛び出してなまえさんのところへと走る。なまえさんは今日クリスタリウムで宿題をする、と言っていた(盗み聞き)からクリスタリウムにいるはずだ。僕は全力疾走でクリスタリウムへ向かった。

クリスタリウムの扉をバターンと開け、なまえさんの名前を大声で叫んだ。



「なまえさーん!」



クリスタリウム中に僕の声が響き渡る。静かなクリスタリウムが一気にざわついた。なまえさん、どこにいるの!?



「ちょ、ど、どうしたの!?」
「!なまえさん…!」
「え!?な、泣いてるの!?」
「ぼ、僕、僕…!」
「お、落ち着こう?ね?」



なまえさんは僕の顔を覗きこむ。あぁ、なんて優しいんだ。優しすぎて目の前が霞んできた。男が泣くなんて、しかもこんなことで…!

クリスタリウムから出た僕となまえさんはエントランスの端にある椅子に座った。



「急にどうしたの?」
「あ、あのさ…なまえさんに聞きたいことがあって…」
「?聞きたいこと?」



面と向かって言うのは少し、いやかなり恥ずかしい。だけどこれは僕の生死に関わるほどの問題だ。ここは引くわけにはいかない。
僕は意を決して顔をあげた。なまえさんと目が合う。



「なまえさんは…!ぼ、僕のこと、嫌いに…なっ…た…?」



最後の方が小声になってしまった。そしてまた顔を俯かせる。なまえさんの顔を見ていられない。もし、嫌いだなんて言われたら…僕は…僕は…!



「…えぇっ!?え、えーと…えー…」



なまえさんは何やら言いにくいのか言葉を濁していた。そりゃそうだ、面と向かって嫌いだなんてハッキリ言えないだろうなぁ…。ていうか言葉を濁すってことはやっぱり…。



「き、嫌いなわけないよ!」
「……………え?」
「だ、だから嫌いじゃ、ないから!」



なまえさんの答えに僕は呆然として、顔をあげる。そこには頬を赤く染めた、なまえさんの姿があった。



「…嫌いじゃ、ないって本当?」
「ほほほ本当だってば!」
「じゃあ…す」
「なまえー!帰るわよー!」
「あ、はーい!ま、またねジャックくん!」
「あっ…!」



なまえさんはケイトに呼ばれ席を立って走って行ってしまった。僕はそれを見送ると、力なく机に突っ伏した。

はぁ、とりあえず嫌われてなくて、本当によかった。




(少し意地悪しすぎましたかね)
(あぁ、ありゃ相当凹んで)
(もう!キングとトレイのバカ!嫌われてなくてよかったー!)
(……やっぱりもう少し意地悪するか)
(……そうですね)



(2012/5/27)
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