∴ お姫さまおんぶ?





今日は学校行事の球技大会。天気は快晴、運動するのにはもってこいの天気だ。各クラスで女子はドッジボールとバレー、男子はバスケとサッカーで別れ学年別に行う。私とケイトはドッジボールを選び、自分たちの番が来るまで男子の応援をすることになった。



「応援っていうか見学だよねー」
「そうだね」
「ま、あんたはジャックが見たいんでしょ?」
「うっ、そ、そんなことないもん」
「素直になんなさいよ!」



ケイトに茶化されながらも体育館へとやってくる。確かジャックくんはバスケを選んでいたはずだ。が、体育館に来たのはいいもののすでに女の子たちがコートを囲んでいたために肝心のジャックくんすら見えなかった。



「あちゃー、先越されたね」
「…まぁ、ジャックくん以外にもトレイくんやキングくんもバスケ選んでるもんね」
「そういやそうね。あ、あとはクラサメ先生が審判してるのもあるかも」
「し、審判…」



審判をしている姿を見るために来る人がいるのだろうか、と思ったらクラサメ先生を呼んでいる女の子がいた。そうか、審判しているだけでもモテるのか。



「あ、二階ならまだ空いてるじゃん!上から見たほうが見やすいし、二階行こ!」
「わっ!?」



ケイトに手を引っ張られ体が傾く。女の子たちを避けながら、舞台裏から二階へ続く階段を登る。二階につくと確かに空いていて、バスケットコートも見渡せた。二階からだと全体が見渡せてどこに誰がいるのかわかるから見やすかった。



「お、ジャック出てるじゃん」
「!ほ、ほんとだ!」



11番のナンバリングを着て今はディフェンスをしている。ジャックくんの他にもトレイくんやキングくんも出ていて、あの3人って本当にいつも一緒だなぁ、と少し笑えてしまった。



「金髪三人組ー!頑張れー!」
「!」



ケイトが大きな声で応援する。私も応援しようと口を開くが、ケイトみたいに大声は出せなかった。だって、なんか恥ずかしいじゃないか。



「おや?あそこにいるのはなまえさんじゃありませんか?」
「え?!どこどこ!?」
「あそこの、ほら、二階ですよ」
「えー!?わかんないよー!」
「コラァー!ジャックー!しっかりディフェンスしろー!」



ジャックくんは顔をキョロキョロとさせていて、クラスメイトから注意されていた。ジャックくんが注意されたあとにキングくんが相手のボールをカットし、ゴールへ向かってドリブルをする。キングくんにディフェンスがつくと、キングくんはトレイくんにパスをした。トレイくんは綺麗なフォームでシュートする。
シュートが綺麗に決まると、コートの外にいる女の子たちの黄色い声が体育館に響いた。



「今のは俺のパスが良かったな」
「あの場面ではパスするしかなかったでしょう?」
「トレイ、ズルい!僕もシュート決める!」
「コラー!金髪三人組、ディフェンスしろー!」



男の子ってこういう大会だと熱くなるんだなぁ、と感心しながらジャックくんを凝視する。うあー…かっこいい、と見惚れていたらジャックくんと目があった、ような気がした。



「!(なまえさん発見!)よーし、良いとこ見せるぞー!」
「ジャック、あなたそんなこと言ってるそばから抜かれてますよ」
「んなっ!?」



ジャックくんと目があったと思ったら相手がジャックくんを軽々と抜いていてシュートモーションに入る。



「ハエタタキ!」
「ナイスキング!」



相手がボールを放った瞬間、キングくんが相手の放ったボールをバシン、と叩き落とした。あの某バスケ漫画の技のような言葉が出たのは気のせいだろうか。
転がっていくボールをジャックくんが拾い、一気にゴールへとドリブルしていく。



「(よし、ここは良いとこ見せるチャンス!)」
「…(めちゃくちゃかっこいい…!)」



ジャックくんはオフェンスから戻ってきたディフェンスを抜いて、ゴールに向かってジャンプをした。私は両手を握ってジャックくんを見つめる。そしてジャックくんは普通のレイアップを決め、自分たちに得点が入った。



「なによ、ダンクかと思った」
「…かっこいい…」
「普通のレイアップなのに?」
「…かっこいい」
「………」



だめだこりゃ、と呟くケイトに私はかっこいい以外の言葉が出なかった。



「なんでダンクしなかったんですか」
「え?!い、いやー…失敗するとかっこ悪いじゃん?」
「ジャンプするとこ間違ったんだろ」
「………」



ジャックくんのレイアップが決まったあと、金髪三人組は他のクラスメイトと交代していた。ケイトは体育館に設置されてる時計を見て、やば!と声をあげる。



「もうこんな時間じゃん!なまえ、行くよ!」
「あ、待ってって!」



ケイトが走り出し、それを慌てて追う。二階から一階に続く舞台裏の階段を降りようとしたそのとき。右足がグニッとなった感触がしたと思ったら、一気に階段から転げ落ちてしまった。



「なまえ!?」
「…った…」



落ちた音にケイトが気付き私に駆け寄ってくる。なんでこんなときに滑って落ちるのだろう。ジンジンと痛む右足に、両手でおさえて痛みを堪える。あぁもう、痛くて泣きそうだ。



「待って、誰か呼んでくる!」
「い、いよ!足、捻ったみたいだから…保健室行ってくる…」
「ならあたしも…」
「だ、大丈夫大丈夫!1人で行けるよ」



壁にもたれながらゆっくり立ち上がる。右足以外は少し痛いだけなようで、歩けるには歩ける。私がそう言うとケイトは何故か閃いたような表情をして私の前からいなくなった。なんか、嫌な予感がする。



「なまえさん!」
「!じゃ、ジャック、くん…」



やっぱり、と心の中でケイトを恨んだ。まだ試合中なのに、なんでジャックくんを呼んだんだ!嬉しいような気がしなくもないけど、でもこんな姿見られたくなかった。



「だ、大丈夫?!」
「う、うん!大丈夫大丈夫!ジャックくん、まだ試合中でしょ?ほら、戻らないと」
「いやいやいや、そんなことよりなまえさんのほうが心配だから!」
「!」



そんなこと言われると私の心臓がもたないよ。どう返せばいいかわからない私はジャックくんから顔をそらす。顔、赤くなってるだろうな。



「保健室まで、僕が連れていくよ!」
「え!?いや、ほら、試合中、だし…」
「だから、試合よりもなまえさんのほうが大事なんだって!」
「…っ!そ、ですか…」



もう今なら死んでもいい、いや死にたくないけど。顔がにやけていくのを必死に堪える。私の反応にジャックくんはハッと我に返り、パッと顔をそらして片手で顔を覆った。



「(僕、なにいってんのさ…!試合よりもなまえさんが大事なのは確かだけど…な、なんかこんな反応されるとこっちまで照れる…!)……あの、さ」
「は、はい?」
「お、おんぶ、でもいい?」
「え!?い、いやでも…」
「ぼ、僕で良かったら、だけど…」



断ろうとしたらジャックくんはしゃがんで背中を向ける。それを見て広い背中だなぁ、と思ったがジャックくんに早く!と急かされ、結局ジャックくんにおぶってもらってしまった。



「お、お願いします…」
「ま、任せて!」



こうして体育館から保健室までジャックくんにおぶってもらい、しかも保健の先生に寮の部屋まで私を送るよう頼まれるジャックくんでした。





(け、ケイトのばか!)
(いやそこは感謝しなさいよ!全く…足は大丈夫?)
(…うん、大丈夫。しばらくは松葉杖だけどね)
(何かあったら言いなさいよ。出来る限りのことは手伝うから)
(ありがと、ケイト)



(そこはお姫様抱っこでしょう普通)
(え!?だ、だって恥ずかしいじゃん!)
(お姫様おんぶ、か。夢がないな)
(うううるさい!もうほっといてよー!)



(2012/5/22)
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