∴ 大好きだけど大嫌い! 授業の合間の放課に僕はキングとトレイとツレションをしていた。僕がズボンのチャックに手をかけようとしたらキングが隣であー、と声を漏らしていた。それを横目に僕も用を足す。ていうかあー、とか言うなよ!なんか下品だろ! 「ふぅ……今日は風が強いな」 「そうですね、こんな日は運がいいとアレが見れますよね」 「?アレってなにー?」 トレイとキングはお互い顔を見合わせてからニヤリと笑う。この2人は妙にウマがあっていて僕だけ着いていけないときがある。僕が真面目なだけなのかはたまた2人が特別なのかはわからないけど。僕はチャックを上げて手洗い場へと向かい手を洗う。 「ジャック、風が強いと言ったらアレしかないじゃないですか」 「アレ?」 「女子のスカートの中だ」 トレイが言った後、キングがニヤリと笑って僕を見た。なんかその笑み卑劣だなぁ、と思いながら女子のスカートねぇ、と呟く。女子のスカート女子のスカート………え?まさか。 「もしかしてし、下着のこと?」 「何故そんな遠回しに言うんですか。パンツのほうが言いやすいでしょう?」 「そんなハッキリ言うトレイ、トレイじゃない!」 「甘いなジャック、トレイは元からこういう奴だ」 「元からとは失礼ですね」 トレイがキングに汚染された!と言うとキングが無言で背中を殴ってきた。グーは痛いっつの。そんな痛みに耐えながら、頭の中はパンツのことでいっぱいになってしまった。これもキングの汚染かもしれない。 「ジャックは女子のパンツに興味ないんですか?」 「お前がまさかソッチ系だったなんてな」 「いやそっち系なんかじゃないから!そ、そりゃあ僕も一応思春期真っ只中の男の子だし、気にならないわけじゃないけど…」 そう、興味がないわけじゃない。見てみたいとも思う。あわよくばあの子の、なんてそんな都合のいい話があるわけないが。 「では今日の帰り見に行きましょうか」 「はぁ?!」 「そうだな、善は急げと言うしな」 「いやいやこれ善じゃないから!悪だから!」 「ジャックはどうしますか?」 「うっ……」 「俺が代わりになまえのパンツ見てきてやろうか?」 「!!?だ、ダメダメダメ!キングが見るくらいなら僕が見…」 「決まりですね」 「!!」 トレイとキングはしてやったり、という顔で僕を見ていた。あぁ、僕はこの二人から逃げることができなかったんだ、と悟った。 授業中、僕は気が気でなかった。なまえを見つめてはハァ、と重い溜め息をつく。なまえにズボンをはいたほうがいい、なんて言えるわけがない。だって僕の中では、なまえを守るよりもパンツを見たいという欲求のが勝っているからだ。ごめんなさい、と僕は心の中で謝ることしかできなかった。 帰りのHRが終わるとすぐにトレイとキングがやってきて、僕の腕を引っ張り魔導院の入口の外にある階段下で待機する。日が暮れるにつれ風は強まるばかりだった。 「さぁ、やってきましたね」 「あぁ、俺は準備万端だ。いつでもかかってこい」 「……(二人とも気合い入ってるなぁ)」 それからHRが終わったであろう生徒が魔導院から出てくる。トレイとキングは別に怪しい素振りをせず、平然を装っているが目はもう獣のように鋭かった。 「ピンクでしたね」 「白もいたな」 「あ、あの方真っ黒でしたよ」 「あっちはシマシマだ」 「…………」 もちろんこれは小声の会話で、風が強いこともあり周りの生徒に気付かれることなく二人は淡々と話していた。そんな二人を横目に、僕は魔導院から出てくる女の子を見つめる。 「あ、」 「ジャックの本命のなまえさん、出てきましたね」 「ジャック、よーく見とくんだぞ」 なまえはケイトと一緒に魔導院から出てきた。僕はなまえを食い入るように見つめる。なまえとケイトは風が強いなか、階段を下りようとしていた。 なまえが一段目に足を下ろした瞬間だった。 ──ビュオオォォ 「!」 「あっ…!」 今日一番なんじゃないかと思うくらい強い風が吹き、なまえのスカートをめくっていった。神様は僕の味方なんじゃないかと思うくらい鮮やかだった。もちろん、トレイもキングもなまえのパンツを見ただろう。しかし僕はそんなことよりもなまえのパンツを見てしまったことに、身体が自然と硬直した。 「ちょっとなまえ大丈夫?」 「うぅ……ケイト、スパッツ履いてたんだ…」 「今日風強いのわかってたからねー。こういう日は…ほら、ああいう奴らが目を光らせてるからさ」 「え?」 ケイトが僕たちに指を指し、なまえもこっちへ視線を寄越した。不意になまえと目があってしまい慌ててそらしてしまう。あぁ、顔が暑い。きっと真っ赤になっているんだろうな、と手を強く握った。 「では、私たちも帰りましょうか」 「行くぞ、ジャック」 「え?!あ、ちょ、まっ…」 「ちょっと、いい?」 「!!」 制服を引っ張られ後ろへと傾く。なまえの声が僕の真後ろから聞こえた。少し声が震えているような気がする。僕はなまえに捕まり、トレイとキングは歩き続けていた。おい、お前ら、友達を裏切るのか…! 「ねぇ」 「……はい」 「こっち、向いてくれないかな」 「……できれば向きたくない、です」 「向いてくれないかな」 「はい」 二度目の声はドスが効いていたような気がする。僕は光の速さでなまえと向き合う。目は合わせられない。なまえを見たら、あの時のことが蘇るから。 「正直に、答えてね」 「はい…」 「み、………見た?」 「………」 「………」 「…ごめんなさい!」 なまえに向かって直角になって謝る。そのまま動かずにいると、ポツリとなまえは呟いた。 「…きだけど、大っ嫌い!」 「へ…?」 そう言うとなまえはケイトのところへと走って行ってしまった。僕は呆然としながらなまえの背中を見送る。僕の聞き間違いじゃなかったら、なまえは──。 (大好きだけど、大っ嫌い!) ごめん、自惚れてもいいかな。 (2012/4/26) |