∴ 缶コーヒーと君のぬくもり 今週はテスト勉強週間といって、テストが近くなってくると部活が休みになり勉強をしなければならない。なまえはクリスタリウムでジャックと一緒に勉強をしていた。といってもほとんどジャックに勉強を教えてるだけで、自分の勉強は全くしていなかった。 「うんうん、なるほどねぇ」 「そうそう、ジャックくんってやればできるじゃん、ね、ケイト」 「いや、まぁ、うん、そうだけど…」 「へへー、トレイに聞くよりもなまえさんのほうがずっと分かりやすいよー」 「なっ……」 なまえとジャックだけで勉強しているわけじゃなかった。まだ付き合って日も浅い二人は、二人きりになるのが恥ずかしいのかケイトとトレイを連れて、クリスタリウムへと来ていたのだ。ちなみにキングはトレイを置いて先に帰ってしまった。薄情者、とトレイが叫んだがキングには届かなかった。 ケイトとトレイは顔を合わせて溜め息をつく。二人は恥ずかしいと言っていたが、むしろ二人がラブラブ過ぎてこっちが恥ずかしい。二人はすっかり自分達の世界に入っていた。 「……あ、あたし今日用事があったんだった」 「奇遇ですね、私もです」 「「えっ」」 「てことで、また明日ね、なまえ」 「私も失礼します。ではお二人とも、ごゆっくり」 「あ…」 「ちょ、!」 ケイトとトレイは足早に二人の前から去っていった。二人は呆然とクリスタリウムの入り口を見つめ、我に返ると二人して顔を俯かせた。それからぎこちなくなった二人に、帰る時間になりました、と放送が入った。 「…か、帰ろっか」 「そう、だね」 机の上を片付けて席を立つ。外はいつの間にか真っ暗になっていて、二人して空を見上げた。白い息が真っ暗の空へと溶けていく。 「…寒いね」 「だねぇ…」 「いこっか」 二人は歩き出す。歩きながらジャックは思い出したかのように声を上げた。 「勉強、見てくれてありがとねぇ」 「ううん、全然。ジャックくんの役に立ててよかった、よ」 恥ずかしそうに俯くなまえにジャックの胸がキュンと高鳴った。二人はドキドキしながら暗い夜道を歩く。なまえが両手を口に持っていきハァと吐くのを見たジャックは、暗い夜道に光っている自販機を見つけると自販機の前で立ち止まった。 「?」 「手、寒いっしょ。奢るよ」 「えぇ!?いいよ、そんな気にしなくて」 「今日のお礼、だからさ。何がいい?」 小銭を入れるとジャックはなまえに振り返る。なまえは申し訳なさそうにしていたが、ジャックがいいからいいからと急かすので自販機のほうへと目を向けた。色々な種類の缶ジュースに、HOTと書かれたところへと視線を移す。ジャックを待たせては悪いと思ったなまえはコーヒーのところが目に入った。 「じゃ、じゃあコーヒーで」 「はいはーい。微糖?」 「うん…」 なまえは言ってから後悔した。どうしてコーヒーなんかを頼んだのだろうか、ポタージュとかココアとかもっと他にあるだろう。なまえは心の中で頭を抱えた。 かわいくないな、て思われただろうな。 「はい、コーヒー」 「あ、ありがとう!」 「いえいえー」 じゃ、僕もコーヒーっと。 そう言ってガコン、と自販機からコーヒーを取り出す。なまえはコーヒーの缶を両手で持つ。 「暖かい、」 「だね。……あーでもさ、片手で飲むと片手寒くなら、ない?」 「うん、でもまぁしょうがないよー」 「じゃあさ!これなら、暖かいよね!」 「え」 そう言うと同時に右手にジャックの左手が重なった。なまえは目を丸くさせてジャックを見ると、照れ笑いを浮かべているジャックがいた。ジャックの照れ臭そうに笑う顔を見て、なまえも思わず照れてしまった。 (…うん、これなら寒くないね) (…へへっ、でしょ!僕の手は年中無休で温もりを提供していまっす!) (あはは…じゃあ、明日もお願い、しようかな) (!もちろん!) (2012/2/24) |