愛情表現



「よっ。お務めご苦労さん」
「いやなんで当然のようにいるの」


部屋に帰ると当然のようにナギがいた。ナギはマイカップを手に、優雅に紅茶を飲んでいる。マイカップももう随分前から私の部屋に置いてあった。こんな時のためにマイカップを置いていったのだろうか。全くもって図々しい。
そんなナギを見ていると、私の視線に気付いたナギはにこやかな表情で自分のカップを私に差し出してきた。私、そんなに欲しそうな顔していただろうか。


「まだおかわりあるぜー」
「おかわりって…」


おかわりするほどの量があることに呆れながら、私はナギからカップを受け取って口にした。仄かに香るハーブティーに肩の力が抜ける。
ふとカップからナギに視線を移すと、未だにこやかな表情を浮かべていて、何故かその表情に違和感を覚えた。私はカップを置いてベッドの上に座る。そして、自分の横を手で叩いて口を開いた。


「ナギー、おいでー」
「俺は犬かよ!」
「猫でも可」
「良くねぇし!」


そう言いながらもナギは私の隣に座る。私はナギのバンダナに手を伸ばし、それを取った。前髪が目にかかるのか、少しだけ目を細める。


「いきなり何すんだよ」
「んー?なんとなく」
「あっそ…」
「前髪、長くなったね」


この間切ったばかりだというのに、もう目にかかるようになった髪の毛を手で弄る。ナギはそれを聞いて苦笑した。


「そりゃあ、生きてるからなー」
「そっか、死んでたら髪なんて伸びないもんね」
「どっから突っ込めばいいのかわかんねぇ」
「ねーナギ、ナギの話ならいくらでも聞くよ」
「…………」


前髪を掻き分けて、ナギと目を合わせる。ナギの瞳が少しだけ揺れて、そして私から逃げるように目を伏せた。私はナギの髪の毛を弄りながら待つ。
やがてナギの口が動いた。


「この間、裏切り者の始末したんだけどさー、その人数が二人だったんだよな」
「二人?珍しいね」
「で、報告書によるとそいつらデキてたんだって」
「カップルだったってこと?」
「ん、そう」


魔導院にカップルがいるのはそう珍しくはない。隠して付き合う人もいれば堂々と付き合っている人もいる。誰にも公言はしていないが、私とナギも所謂カップルだった。
カップルで国を裏切っていたのか、はたまたどちらかが裏切っていて寝返ったか。どちらにしろ、悲しい話なのには変わりない。


「でさ、俺思ったんだけど」
「ん?」
「もし俺が朱雀を裏切ったら、お前はどうする?」


ナギの瞳が私を見据える。三つ編みしていた手を止めて、私はナギをじっと見つめ返した。
見つめ合う中、私がふんと鼻で笑うと、ナギは不快そうに眉間に皺を寄せた。


「当然、ナギに着いていくよー」
「はあ?俺は裏切り者だぜ?」
「仕方ない、仲間になってしんぜよう」
「おま…あのなぁ、冗談でもそんなこと言うのは」
「冗談でもなんでもないけど。本気だよ、私」


そう言うとナギは目を見開いた。
ナギが裏切り者だからなんだっていうんだ。どこぞのヒーローじゃあるまいし、俺のことよりも自分の心配しろって?冗談、私はナギと生きるためにいまを生きてるんだから。
捲し立てるように言ったあと、私はナギの額を指で弾く。ナギは「いたっ」と声をあげて、額を手で押さえた。


「ナギが思ってる以上に私がベタ惚れなの、わかんない?」
「え、あー…悪い、わからんかった」
「えー…もっと愛情表現したほうがいいのか…」
「いや、今のままでいい、心臓がもたねぇから」
「?いいの?」


片手で顔を覆って私から逃げようとするナギの顔を覗き込む。そこには真っ赤な顔をしたナギの顔が目に映った。
いつもポーカーフェイスのナギに、思わず胸が高鳴る。
私が顔を覗き込むと、ナギは逃げる。それを何回か繰り返したあと、痺れを切らした私はナギの腕を掴み、手を退かそうとした。


「や、やめ、なまえ…!」
「やだ、見たい」
「やだって、んなかっこ悪いとこ見せられっかよ…」
「かっこいいナギもかっこ悪いナギも見たいの!ナギだから見たいの!」
「意地悪いなお前!」
「そんな人と付き合ってる人はだーれだ?」
「……だぁー!もう!」


腕を引っ張っていたのが、逆に腕を引かれる。そして、背中に柔らかい感触と、目の前にナギの顔が目に映った。その頬は微かに赤みを帯びている。


「お前に意地悪されるより、したほうがマシだ」
「真っ赤な顔して言われても迫力ないよ」
「うっせ、なまえのせいだろ」
「あと、三つ編みした髪の毛で言うのもね」
「三つ編み…?んなっ!」


ナギは自分の髪の毛を触って飛び起きる。赤い顔で私をキッと睨んだ後、洗面所に向かっていくナギに、後で痛い目見るだろうな、と一人ほくそ笑んだ。




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