しあわせなひと時



ある日の昼下がり。ジャックはテラスから空を見上げながら、大きな欠伸をする。
今日は講義が休講となり、ジャックは暇を持て余していた。つい先日レポートを提出して課題も昨日出し終わったため、今日のジャックは1日休みの日だった。


「(これからどうしようかなぁ、ケーキでも食べに行こうか、あぁでも徹夜で課題やったから眠いやぁ)」


だからと言っていちいち部屋に戻るのも面倒臭い。でも、今日は昼寝するには絶好の日和だ。1日休みでしかも何かに追われることなく昼寝ができるなんて、この先一生ない気がする。
どこで昼寝しようか悩んでいると、誰かがジャックの名前を呼んだ。


「ジャックはっけーん!」
「?あ、なまえだー」
「何してるのー?」


にこにこと愛想の良い笑みを浮かべる彼女は、ジャックが密かに想いを寄せている人だ。なまえはジャックの隣に座ってジャックの顔を覗き込む。そのひとつひとつの仕草に内心どきどきしながら、ジャックは笑みを作った。


「何しようか悩んでるとこー」
「要は暇ってこと?」
「まぁ、そういうことだねぇー」


ふぅん、と言う彼女にふとジャックは思い付いて、なまえに声をかける。


「ねぇ、なまえは暇?」
「ん?うん、暇だからジャック探してたの」
「へ?ぼ、僕を探してたの?」
「うん!」


なまえは屈託無い笑顔で頷いて見せた。自分を探してたことに嬉しさを隠せず、思わず頬をかく。こうしてジャックはいつも彼女の一言一行に振り回されていた。
ハッと我に返ったジャックはなまえを見る。なまえは首を傾げてジャックを見上げていた。


「暇ならさ、お昼寝しないー?」
「お昼寝?どこで?」
「うーん、それが問題なんだよねぇ」


そう言ってジャックは腕を組む。
裏庭は人がいるしクイーンに見つかったら厄介だ。だからと言って魔導院で寝っ転がれる場所といえば、闘技場かチョコボ牧場くらいしか思い付かない。
闘技場はエイトが居そうだし、チョコボ牧場はヒヨチョコボに昼寝を邪魔されるだろう。エースやマキナがいれば延々とチョコボの話を聞かされるに違いない。
結局思い付かなかったジャックは深い溜め息を吐いた。そんなジャックに、なまえは「あっ」と声を上げる。


「ねぇねぇジャック!」
「んー?」
「私、昼寝できる場所知ってるよ!」
「えっ!ほんと?」


うんうんと頷いてなまえは立ち上がる。そしてジャックの手を取った。
目を丸くするジャックに、なまえはにっと笑う。


「私の特別な場所、ジャックにだけ教えてあげるね」
「特別な、場所?でも、僕なんかに教えてもいいの?」
「いいの、ジャックは特別だから!」


その言葉ジャックの胸が高鳴る。どういう意味なのか凄く知りたいけれど勘違いだったら嫌だし、と思いあぐねているとなまえが歩き出した。慌ててなまえの後を着いて行く。



なまえに着いて行くこと数分、魔導院から外れた場所に向かうなまえにジャックは首を傾げた。どこに向かうつもりなのか不思議に思っていると、不意にになまえは立ち止まる。生い茂る木々の隙間から何かの建物が見えた。


「ねぇ、あれ何の建物?」
「あれは要人の宿泊施設だよ」
「要人?」
「んーと、朱雀に訪問してきた偉い人が寝泊まりするところ、かな」
「えっ!?なんでまたこんなとこに?」
「まぁまぁ、着いて来ればわかるって。あ、今は誰も泊まってないから多分大丈夫だと思うよ」
「大丈夫って、あっ、ちょっ、待ってよー!」


なまえはつかつかとその施設の入り口へ歩いていく。入り口には朱雀兵が二人いて、誰かが勝手に入らないように見張っているようだった。
ジャックは怒られないか心配していたけれど、なまえは二人の朱雀兵と話したあとジャックに振り返る。


「大丈夫だって!」
「え!?本当に?」
「クラサメ教官の指示なら仕方あるまい」
「へ、クラサメ教官…?」
「ありがとうございます!ほら、行こうジャック!」
「あ、う、うん」


ジャックの手を引っ張ってなまえはその施設へと入っていく。そして廊下の奥にある階段をひたすら登り、着いた先は少し錆びれている扉だった。
この先に何があるというのだろう?ジャックは怪訝そうになまえを見るけれど、なまえはにこにこと笑うだけだった。


「ねぇねぇ、開けてみて!」
「え?僕が?」
「うん!」


なまえにそう言われたジャックは恐る恐る扉を開ける。


「!う、わぁ…」


開かれた先には一面の花畑が広がっていた。花壇には色とりどりの花が植えられていて、その幻想的な光景にジャックは言葉を失う。呆然としているジャックに、なまえはクスクス笑いながらジャックの手を引っ張った。


「わわっ」
「こっちこっち!」


なまえに引っ張られるがまま花壇の間を歩く。こんな場所があったのかとキョロキョロ見回していると、不意になまえが立ち止まった。
なまえはジャックに振り返り、座るよう促す。視線を下に向けると、いつの間にか芝生の上に立っていた。


「ここなら誰にも見つからないし昼寝の邪魔もされないよ!」
「そう、だねぇ。いやぁ、魔導院の近くにこんなとこがあったなんて知らなかったよー」
「へへー、誰にも言っちゃダメだからね!」
「うん、もちろん!」


唇に人差し指を当てるなまえにジャックは頷く。それをなまえは満足そうに笑った後、芝生の上に寝転んだ。ジャックもまたなまえの隣に寝転ぶ。
綺麗な青空の下、一面の花畑の中で寝転ぶのは凄く心地が良かった。風も穏やかで、日差しも暖かい。おまけに隣には好きな女の子がいて、ジャックは幸せだなぁ、と思った。


「はー、幸せだねぇ」
「えっ」
「ん?」
「…へへ、実は僕もそう思ってたんだぁ」
「そっかぁ…えへへ、なんか照れるね」


照れ臭そうにはにかむなまえにジャックは目を細める。いつまでもこんな時間が続けばいいのに、そう思いながら、ジャックはなまえの手を握った。
なまえは目を見開いてジャックを見る。


「お昼寝、しよっか」
「…うん、そうだね」
「おやすみ、なまえ」
「ん、おやすみ、ジャック」


眠気なんて全くないけれど、ジャックは瞼を閉じる。繋がれた手の心地良さを感じていたら、隣から小さな寝息が聞こえてきた。
ジャックはそうっと瞼を上げて顔をなまえに向ける。


「…寝るの早いなぁ」


思わず苦笑いしてしまう。どれだけ眠かったんだろう、と不思議に思いながらジャックはこれ幸いとなまえとの距離をつめた。
なまえの額に自分の額を当てる。こんなにも近いのは初めてで、ジャックの心臓はどくんどくんと大きく脈を打っていた。
このままでは自分の理性が保たない。そう悟ったジャックはなまえから顔を逸らした。青い空が目に映って、自然と落ち着きを取り戻していく。
彼女にとって特別な場所を教えてくれたのは、何かきっと意味があるに違いない。恋人になれる日がそう遠くはないことに胸を膨らませながら、ジャックは瞼を閉じた。


数時間後、険しい顔をしたクラサメに起こされた二人は、朱雀兵を騙した罰として反省文を書く羽目になってしまうのだった。



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