友人以上恋人未満



「あんたたちって付き合ってんの?」
「は?」


私に会うな否や開口一番にカルラは言う。あんたたちって誰と誰のことだろう?と首を傾げる私にカルラは「ナギとあんたよ」と口にした。
あぁ、ナギと私ね。で、付き合ってるかって?そんな馬鹿な。
私がそう言うとカルラは眉間に皺を寄せる。どうやら不服らしい。


「ていうかなんでいきなりそんなこと言うの?」
「ん?まぁちょっとした調査よ」
「調査?」


何の調査だ、何の。
カルラはメモを取り出して何かを書き出す。メモ帳を常備しているのは知っているけれど、その中身を私は知らない。試しに何が書いてあるのか見ようとカルラの後ろから覗き込むも、サッとかわされてしまった。


「勝手に見ないでちょうだい。私の大事な取り引きが沢山載ってるんだから」
「取り引きって…。相変わらず守銭奴だね」
「まぁねん」


カルラは語尾にハートがつきそうな言い方をして、メモ帳をしまう。いつかそのメモ帳の中身を見てやると誓った。







そんなカルラとの会話を思い出したのはナギとの任務が終わって、報告書を書いているときだった。時折欠伸をしながら報告書を書くナギを盗み見る。
なんで私がこんな奴と付き合ってるのか聞かれなきゃいけないんだ。ナギとは良き友人であり続けたかったのに。


「なに人の顔ジロジロ見てんの」
「ぅえ?!あ、ご、ごめん」


慌てて報告書に視線を移す。良き友人、そう自分で思ったのにも関わらず、あり続けたかったって矛盾してるじゃないか。それってつまり友人以上の関係になりたいと思ってる?いやいやそんなまさか。あぁもうカルラが余計なことを聞いてきたせいで変なことばかり考えてしまう。


「今度は百面相かよ」
「え?!」
「お前何考えてんだ?…気持ち悪いぞ」
「なっ…」


気持ち悪いって……そんなはっきり言わなくてもいいのに!
そう言いたかったが、ナギの顔を直視した途端に言葉が出なくなる。みるみるうちに頬が熱くなってきて、私は紛らわすようにペンを走らせた。


「……なぁ」
「な、なに…?」
「この間さー、カルラから俺とお前付き合ってんのかって聞かれたんだけど」
「えぇ!?」
「どこをどう見て付き合ってるって思ったんだろうな」
「そ、うだね」


確かにそう言われればそうだ。私とナギは同じ組でたまに一緒にご飯を食べたり、たまに買い物に出掛けたりするだけだ。恋人らしいことなんてしてないししたこともないのに、どこを見て付き合ってると思ったんだろう。
頭を捻る私にナギは何かを思い出したかのように口を開いた。


「そうそう」
「ん?」
「つい先日8組の子に告白されたんだぜー」
「は…、えっ、告白?ナギが?」
「俺以外誰がいるんだよ」


そう言ってふふんと鼻を鳴らし、どや顔を披露する。私はそれを聞いて何故か胸の奥がキュッと痛くなった。ただ告白されたと言われただけなのに、このモヤモヤする気持ちはなんだろう。


「いやーモテる男は辛いねー」
「な、なんて答えたの?」
「ん?なに、気になんの?」


にやにやと卑しい笑みを浮かべるナギに思わずムッとする。別に気になるとかじゃないし、ナギが自慢気に言うから聞いただけだし。私がそう言ってもナギの顔はにやにやしたままだった。実に腹立たしい。


「教えて欲しい?」
「…っべ、別に知りたくないもん」
「知りたくて仕方ないって表情してるぜ?」
「うっさいな、あんたこそなに勿体ぶってんの?!言うか言わないかはっきりしてよ!」
「じゃあお前も知りたいか知りたくないか、はっきり答えろよ」


ナギの言葉にカァっと頭に血が上る。ナギは余裕の表情をしながら頬杖をついていて、どこか楽しげな様子だ。その態度も癪に触るし、素直になれない自分にも嫌気がさす。
こいつはわかって言ってるんだろう。だからそんなことをわざわざ質問したのだ。
黙り込む私にナギはカラカラと笑い出した。


「ははっ、お前の顔面白いわやっぱ」
「なっ、面白いって失礼だな!」
「はー、青くなったり赤くなったり、忙しい奴」
「〜〜っ!」
「あぁ心配しなくても告白は断ったから」
「…え」


呆然としているとナギはフッと笑って席を立つ。そして書き終えた報告書を持って、背中を向けた。
クリスタリウムから出て行こうとするナギの背中に向かって声を上げる。


「心配なんか、してないっつーの!」


ナギにその声が聞こえたかはわからないが、クリスタリウムの扉が閉まる直前、手を上げたような気がした。
ナギが居なくなった後、私は未だ書き途中の報告書に目線を落とす。


「……これからどんな顔して会えばいいの」


ポツリと呟いた言葉のあと、私は大きく息を吐いた。

実は全てナギの企てた罠だったと知るのは、もう少し先の話――。



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