実は相思相愛



なまえは今軍令部の前の手摺りに凭れてある人物を待っている。そわそわと落ち着かない様子に、周りの候補生はまたあの子か、と呆れた眼差しでなまえを見ていた。
そこへ軍令部の扉が開くとなまえの顔は途端に明るくなる。


「ナギ!」
「うわっ!?お、お前なんでここに居るんだよ…」
「ナギのことなら何でも知ってるよ!どこへ何をしに行くのかすぐわかっちゃうんだから!」
「ストーカー発言だぞそれ」
「ナギのストーカーなら大歓迎!」
「俺は大迷惑だ」


ナギはあからさまに嫌そうな顔をして溜め息を吐く。そんなナギになまえはめげることなく、にこにこと嬉しそうに笑っていた。
何でそんなに嬉しそうなんだ、と思いながらナギは眉間に皺を寄せる。ナギの考えてることがわかるのか、なまえは「ナギに会えたから嬉しいんだよ!」と口にした。それを聞いたナギは顔を青くさせて、じとりとした目線をなまえに向ける。


「俺の心読むんじゃねぇよ、プライバシーの侵害だからな」
「だってナギのことなら何でもわかっちゃうもん」
「マジなやつかよ。俺ストーカーするのはあってもストーカーされるなんて初めてだわ」
「私もストーカーされたことはあるけど、ストーカーするのは初めて!」
「ストーカーだって自覚あるんならやめろっつーの!てかストーカーされたことあったのかよ!」


ナギがそう突っ込みを入れるとなまえは照れ臭そうに笑って、「この間チョコボにストーカーされちゃって」と的外れな答えが返ってきた。ナギは思わず溜め息を吐く。

心配して損した。

そう思った瞬間ナギはハッとして頭を振る。

なんで俺がこいつの心配をしなくちゃいけねぇんだ。


「ねー、ナギ〜」
「…んだよ」
「この後暇?」
「暇じゃねぇ」
「この間、マスターがモンブランパフェの試作品作ったらしいんだけどさ、食べに行かない?」
「お前俺の話聞いてた?」


どこまでも話を聞かないなまえに呆れながらも、ナギは諦めたように肩を落とし腕を引っ張ってくるなまえに仕方なく着いて行った。

モンブランパフェを頬張るなまえにナギは頬杖をつきながら見つめる。幸せそうに食べるその姿は微笑ましいけれど、その実態は自分のストーカーだ。あまり微笑ましくないな、と苦笑いしているとCOMMに通信が入った。

昨日任務から帰ってきたばかりなのにまた任務かよ。

上層部の人使いの荒さは今に知ったことではないが、さすがに連続で任務に行くのは気が滅入るものだ。そうは思いつつも、無視するわけにはいかず、ナギは通信を繋げた。


「はい、こちらナギ」
『こちら諜報部。昨日の今日で悪いが急な任務が入った。行ってくれるか?』
「はいはい、わかりましたよっと」
『悪いな。後で軍令部に来て内容を聞いてくれ。今日中には片がつくと思うが、くれぐれも油断はするなよ』
「了解」


通信を切ると不意に視線を感じて顔を向ける。そこには寂しそうな表情のなまえがいて、ナギは目を見開いた。ナギと目が合うとなまえはパッと明るくさせる。


「任務だよね?」
「あ、あぁ…」
「そっか、気を付けて行って来てね!待ってるから!」
「……いや、別に待ってなくていいって」


なまえはナギが任務に行くと必ず「待っている」と口にする。ナギはそれが少し嫌だった。
そう言うナギに、なまえは悲しそうな表情をして目を伏せる。

俺みたいな奴に好意を寄せるより、他の男に目を向けさせた方がなまえのためだ。

ナギはそう思いながらも、なまえが自分以外の誰かに笑っているのを想像して胸がチクリと痛んだ。


「……あ」
「?」
「じゃあ、帰って来たらまたモンブランパフェ一緒に食べよう!」
「は?」
「ね、約束!」
「ちょ…」


なまえは腕を伸ばして無理矢理ナギの小指と自分の小指を絡める。ナギはそれを振り払いたかったが、なまえがあまりにもにこにことしているものだから振り払うのが面倒になり、こうして無理矢理約束をさせられてしまうのだった。



日付が変わる頃、ナギは一人魔導院のゲートを通る。服には返り血を浴びたのか、ところどころ赤く染まっていた。


「はー、早く着替えてぇ…」


そんなことをぼやきながら広場を抜ける。報告は明日でいいか、と思いながらエントランスへの扉を開けた瞬間、足元に何かが転がった。
驚いて足元を見ると、そこにはなまえがごろりと床に転がっていて、ナギは目が点になる。


「な、なんでこんなとこになまえが…?」
「お前の帰りを待つと言って聞かなくてな」
「!?、く、クラサメ士官…」
「任務ご苦労だった」


エントランスの扉の側で壁に凭れているクラサメにナギは気まずそうに頭を掻く。そんなナギにクラサメは目を細めて、壁から離れた。


「報告書は明日でいい」
「…そりゃありがたいっす」
「それと」
「?」


クラサメは床で寝ているなまえをちらりと見てからナギに視線を向ける。


「なまえとの約束、果たしてやれよ」
「えっ?!」


それだけ言うとクラサメはエントランスを後にする。クラサメの言葉に呆気に取られていると、足元から唸り声が耳に入った。


「う〜、頭痛い…」
「…………」
「ん……?あっ!ナギ!え、いつ帰って来たの?!あ、あれ、クラサメ士官は!?」


あたふたとするなまえを見て、ナギは自分の頬が緩むのを感じた。そして、辺りをキョロキョロと見回すなまえの傍に屈み、手を差し出す。


「ったく、こんなとこで寝るなよな。風邪引いたらどうすんだよ」
「えっ、いやぁ、私体だけは丈夫だからね!こんくらいへっちゃらだよ!」
「無理すんなっつーの。ほら、部屋まで送ってやるから」


ナギにそう言われたなまえは、恐る恐るナギの手を握る。ナギは手を引いて起こそうとするが、不意になまえが「あ」と呟いたのを聞いて首を傾げた。


「ナギ、おかえり!」
「!…あ、あぁ、ただいま」


笑顔で言うなまえに不覚にも胸がときめく。ナギは顔に熱が集まってくるのを感じて、それをなまえに悟られぬようになまえの手を引いた。
ナギは顔を見られないようになまえより先に歩く。そんなナギの背中から、なまえの楽しそうな声が聞こえてきた。


「そうそう、約束破んないでね!」
「あーはいはい」
「明日になって約束はなしな、とか言うの無しだからね!あ、今から行けばいいか!」
「そんなことでマスターを起こしてやるなよ。ちゃんと約束守るって」
「えへへー、やったー!」
「うるさい。今何時だと思ってんだ」


ナギに窘められるが、なまえは喜びが抑えきれないのか鼻歌を始める。ナギはそんなに喜ぶことかと呆れながら、ふっと笑みを浮かべた。




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