喧騒に紛れてキスをした



 わたあめも食べ終わり一息つく。不意にケイトたちのことを思い出して、私はおそるおそる口を開いた。


「ねぇ」
「うん?」
「その、ごめん、ね」
「え?いきなりどうしたの?」
「いや、えと、ケイトたちと会ったでしょ?」
「あぁ、そういえばそうだったねぇ。でもなんでなまえが謝るのさー?」


 ジャックはくすくす笑いながら私の顔を覗き込んでくる。だって、多分明日にはケイトたちが私たちのことを触れ回るはずだ。見つかってしまったのが不可抗力とはいえ、ジャックには迷惑をかけてしまうかもしれない。
 そう伝えると、ジャックはポカンと口を開けて呆然としたあと、堰を切るように笑い出した。いきなり笑い出すジャックに今度は私が呆然とする。


「あは、あははは!」
「なっ…なんで笑うの…!」
「いや、だって、もっと深刻なことかと思ったら、ふふふ、そんなことで謝らなくてもいいのにー」
「そ、そんなことって…多分ケイトたちに勘違いされちゃってるよ?いいの?」
「勘違い上等!むしろ大歓迎!」
「えっ…」


 そう言ってジャックはニッと笑った。ジャックの言葉に呆気に取られていると、「あー、でも」と続ける。


「なまえは勘違いされたら嫌、だよね…?」
「わ、私?!」


 いきなり話を振られて動揺するけれど、ジャックが言ってくれた言葉を思い出して、私はぐっと握りこぶしを作った。


「私も!」
「?」
「勘違い上等、だよ!」
「!、えへへー」


 私が言い切るとジャックは照れ笑いを浮かべる。お互い照れ笑いを浮かべていると、不意に大きな音が辺りに響いた。


「あ…」
「ん、花火始まったねぇ」


 街の方へ振り返ると夜空に大きな花が咲く。このビルと花火までの距離が程よく、街の明かりと夜空を照らす花火が凄く綺麗で、思わず息を呑んだ。
 どんどん花火が上がっていくなか、ふと我に返る。この花火の中に、私からジャックへサプライズがあることを思い出して、ジャックに振り向くとちょうど目と目が合った。


「あ、あの…」
「うん?」
「花火の中で、私からジャックにさ、サプライズがあるんですが…」
「え?サプライズ?」


 それを聞いたジャックが目を輝かせる。そんな大したものではないと言うけれど、ジャックはにこにこしながら「何かなぁ」と浮かれていた。何故か申し訳なく感じてきてそれ以上何も言えずに次々に上がる花火を見つめる。
 小さな花火が打ち上げられて少し時間がたったあと、どん、と次に打ち上げられた花火は、夜空に星のマークが浮かんで消えた。私は夜空を見上げながら口を開く。


「ジャック」
「んー?」
「誕生日」
「へ?」
「おめでとう」


 その言葉を口にした刹那、夜空に沢山の花火が放たれた。次々に放たれる花火をジャックは呆然と見上げている。私のサプライズっていうのはこれだった。
 男の人にこういうのはあまり響かないかもしれない。本当なら誕生日おめでとうっていう文字を夜空に浮かべたかったけれど、それに見合うコストが足りなくて結局沢山の花火を打つ、ということに落ち着いてしまった。
 サプライズにしてはちゃちな物で、ジャックも期待外れだと思っているだろう。そう思うとジャックのほうを見れなくて、顔を俯かせた。
 沢山の花火がなくなると、しんと辺りが静まり返る。それからまた花火が再開されて、ボーッと花火を見ていたら不意に名前を呼ばれた。
 声のしたほうへ振り向くと目の前が暗くなる。え、と声をあげようとするけれど何かに塞がれているのか口が開かない。そして花火が上がる音と共に、目の前が明るくなった。花火の光が夜空とジャックを照らす。


「…………」
「……なまえ」
「…え、いい、いま…!?」
「ありがと」


 そう呟くとジャックが私を抱き締める。鼓動が速くなるのを感じながら、私もジャックの背中に腕を回した。
 頭に血が上りすぎて段々花火の音が遠くなる。じわじわと顔に熱が集まるのを感じていたら、耳元でジャックが囁いた。


「好きな人とお祭りに来れて、しかも誕生日を祝ってくれるなんて今日は最高に幸せだなぁ」
「う…ん、私も、幸せです」
「ねぇ、なまえー」
「はい」
「来年もその次の年もずっとずっとさ。一緒にお祭り行って、一緒に誕生日過ごそうね」
「!、うんっ!」


 私が返事をすると少しだけ体が離れる。ジャックを見上げると、頬を赤くさせて微笑みを浮かべていた。そして、花火の打ち上がる音を聞きながら私はゆっくりと目を閉じた。

2014/08/17



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