ふわふわあまい



 あのあと手を繋いだままジャックに手を引かれやってきたのは、街から少し外れたビルの屋上だった。ジャック曰く、このビルは随分前から廃墟となっていて、屋上の鍵を壊してからよくここでサボっているらしい。「僕だけの秘密の場所だよ」と言いながら微笑む彼に、私はまた胸がきゅうっと締め付けられた。

 屋上から見える街並みは凄く綺麗だった。普段何もないところに屋台が並んでいるからか、様々な屋台の明かりが街を綺麗に彩っている。その光景に見惚れていたら、隣からカサカサという音が耳に入った。
 視線を向けると焼きそばの入った透明の容器を2つ取り出して、その1つを私に差し出した。


「はい、焼きそば」
「あ、ありがとう…」


 差し出された焼きそばを受け取るとジャックはにこっと笑って、自分の横の地面をポンポンと叩く。ここに座れといっているようで、私はおそるおそるジャックの隣に腰をおろした。
 割り箸を受け取って箸を割る。焼きそばを口に運びながらちらりとジャックを盗み見ると、凄く美味しそうな顔で焼きそばを食べていた。その食べっぷりに私はジャックに声をかける。


「おいしい?」
「ん?おいしいよー!やっぱり普通の焼きそばよりも屋台の焼きそばのほうがおいしいねぇ」
「ふふ、うん、そうだね」


 ジャックの笑顔につられて私まで笑顔になる。私が焼きそばを食べ終わると、ジャックは2つ目の焼きそばを食べている最中だった。3つも買ったんだと思いながら私は買ってもらった分のお金を出そうとすると、ジャックがハッと顔を上げて私の手を握る。いきなり手を握られて驚いているとジャックが口をもごもごさせながら首を横に振った。


「ど、どうしたの?」
「もぐもぐ…んぐっ!?」
「え!?ちょ、あっ、お茶お茶!」


 どうやら焼きそばを喉に詰まらせたようで苦しそうにもがくジャックに慌ててお茶を差し出す。ジャックはそれを受け取ると勢いよく口に流し込み、やがて、はぁーと長い息を吐き出した。


「だ、大丈夫?」
「うん、大丈夫!お茶ありがとうー、あと少しであの世に行くとこだった」
「大袈裟だなぁ」


 ふふふ、と笑うとジャックもつられたのかへへへ、と笑う。ふとジャックにお金を渡すのを思い出して巾着に手をかけようとしたら、ジャックがそれを制止した。


「お金、いらないからねー」
「え、でも…」
「いいのいいの。今日は全部僕の奢り!ね?」
「う、あ、ありがとう…」


 なんだか申し訳ない気もするけれど、せっかくの厚意を無視するわけにはいかない。お礼を言う私にジャックは満足そうに笑って私の頭を優しく撫でた。こんな然り気無い仕草にも胸がどきどきと高鳴る。心臓がいくつあっても足りないくらいだ。


「あ、そうそう」
「ん?」
「これも買ってきたんだよね」
「なに?」


 そう言いながら取り出したのは色つきの袋だった。目を凝らしてその中身を見るとふわふわとしたものに気が付く。これもしかして、と思いながらジャックを見ると彼は得意気な顔で袋からそれを取り出した。


「わたあめ…!」
「せいかーい!」


 白いふわふわしたものはわたあめで、お祭りには欠かせない代物だ。ジャックは私にわたあめを差し出す。「いいの?」と問うとジャックは大きく頷いた。


「ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして」
「食べていい?」
「もちろん!」


 その言葉に私は頬が緩む。そしてわたあめをぱくりと食べると優しい甘味が口の中に広がった。


「んー、おいしいー甘いーふわふわー!」
「えへへ、喜んでもらえて僕も嬉しいよー」
「あ、私だけじゃなんだし、ジャックもどうぞ!」
「え?いいの?」
「うん!」


 ジャックにも私の気持ちを味わってほしくてわたあめを目の前に差し出す。ジャックは照れ臭そうに笑いながら、口を開けてわたあめをぱくりと食べた。


「ん、ふふ、あまぁい」
「ね、甘いねー」
「わたあめだもんねぇ」
「わたあめ美味しいねー」
「なまえと食べるものだったら何でも美味しいよー」
「えっ」
「ん?」


 そんなことをさらっと言ってしまうジャックに私も負けじと言い返す。


「…わた、私もジャックと食べるものだったら何でも美味しい!よ!」
「あはは、そっか、同じだねー」


 しかし、ジャックみたいにさらっと言えるはずもなくあえなく撃沈。そんな私を面白そうに笑いながら、ジャックはわたあめを持っている方の私の手を取って自分の口元に引き寄せた。




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