煌めく世界とあなた



 次の日。朝起きてから胸はどきどきしっぱなしで、朝ご飯も昼ご飯も喉を通らず、時間ばかり気にしていた。それを見かねたケイトが私の肩を軽く叩く。


「落ち着きないわね。なんか良いことでもあったの?」
「え?!べ、別に何にもないよ!?」


 明らかに動揺する私をケイトはじとりとした目線を寄越してきた。ポーカーフェイスができない自分を情けなく思いながら笑って誤魔化していると、ケイトが小さく息を吐く。


「そういえば今日街のお祭りだけどアンタも行くんでしょ?」
「あ、あーお祭りね。うん、行くよ」
「へぇー?誰と?」


 ケイトは口元に手を当ててにやにや笑いながら私を見つめる。その目線から逃げるように顔を逸らして「カルラと」と口にした。ジャックとお祭りに行くだなんて恥ずかしくて言えるわけがない。
 カルラの名前にケイトは目を丸くさせる。そして眉をひそめながら腕を組んだ。


「カルラとー?本当に?」
「う、うん、本当…」
「ふぅん?カルラとねぇ…」


 そう言いながら疑いの眼差しで私を見るケイトに耐えきれず、私は腰をあげる。きょとんとしているケイトに「約束の時間だからカルラのとこに行ってくる!」と言ってその場から逃げ出した。

 自室に逃げ帰った私は息を整えながらベッドに座る。嘘を吐いてしまったことに罪悪感はあるけれど、茶化されるのが目に見えてわかり誤魔化すしかなかった。あの口ぶりから言ってケイトも誰かとお祭りに行くんだろう。誰と行くんだろうと思いながらベッドに横になった。
 ケイトがお祭りに行くのならもしかしたら私とジャックが一緒にいるところを見られるかもしれない。見つかったら見つかったで茶化されるだろうな、と溜め息を吐いたら不意に扉をノックする音が耳に入った。


「はぁーい…」
「私よ私」
「あ、開いてるからどうぞー」


 そう言うと、扉の開く音がする。私はゆっくりと体を起こすとカルラの姿が目に入った。カルラはにこにこと笑みを浮かべながら「ハロー」と軽快に挨拶をする。お祭りの準備で忙しいはずなのにあの笑顔ということは、多分儲かっているからだろう。上機嫌なあたり、相当金を手に入れたとみえる。


「わざわざごめんね」
「いえいえ、これも商売だからね。それじゃ、早速始めましょうか!」


 カルラの懐から櫛やら簪やら色々出てきて、私は大きく頷いた。







「んー、さっすが私!かわいいわよなまえ!」
「あ、ありがとう…カルラは本当に器用だね」
「ふふ、まぁね。あ、お金お金っと…うーん本当は10000ギルとりたいとこだけど、初デート記念ってことで5000ギルにまけてあげるわ」


 手のひらを出してウィンクするカルラに苦笑しながら私はお財布から5000ギルを取り出す。それをカルラに渡すと満足そうに笑って「楽しんでらっしゃいね!」と言い颯爽と私の部屋から出ていった。
 一気に静かになる部屋に私は時計に視線を向ける。気付けば約束の時間までもう30分前と迫っていた。
 ドキドキとしながらベッドに座る。この日のためにお金を叩いて浴衣を買ったのだ。しかも今日のためにあのサプライズも考えたのだから無駄にできない。
 私は握りこぶしを作ってよし、と意気込むとノックの音と共にジャックの声が聞こえてきた。


「なまえー、迎えに来たよー」
「あ!はい!今いきます!」


 慌てて立ち上がって慣れない浴衣と下駄に違和感を覚えながら何とか扉に向かう。扉の前で大きく息を吸って吐いたあと、ゆっくりと扉を開けた。


「は、早かったね、ジャ……」


 扉を開けると浴衣姿のジャックが目に映る。背が高いからかジャックの浴衣姿は、制服姿よりいつにも増して大人っぽくて、つい見惚れてしまう。大人っぽいのに加え色気まで醸し出していた。
 呆然とする私にジャックは頭をかきながら照れ臭そうに笑う。


「えへへー、待ちきれなくってさぁ」
「そっ、そう、なんだ…」


 まさか浴衣で現れるとは思わなくて、ジャックの浴衣姿をじっと見つめる。いつも制服を着ているからか私服を着ていたときもドキッとしたが、浴衣姿はドキッとどころか目が離せないくらいだ。むしろずっと眺めていたい。
 不意にジャックが私を呼ぶ。ハッと我に返った私は慌てて口を開いた。


「ゆ、浴衣姿、似合うね!」
「え、そう?」
「うん!すごい似合う!似合いすぎてかっこいい!」
「へへ、ありがとうー。なまえも、浴衣姿似合ってるし可愛いよ」
「えっ!?」


 ジャックのその言葉で一気に頭に血が上る。お世辞かもしれない。でもたとえお世辞だったとしても言われた言葉が嬉しくて、私はにやけるのを堪えきれず頬を手で押さえながらお礼を言った。
 ジャックからの「じゃあ早速行こっか」の一言で私たちは部屋を後にする。私たち以外にもカップルらしき候補生の浴衣姿がちらほら見えて、私は少し前を歩くジャックの背中を見つめた。胸は高鳴りっぱなしで収まる気配はない。


「楽しみだねぇ」
「え?」
「お祭り」


 少しだけ顔を振り返らせてにっと笑うジャックに、また胸がドキッと高鳴る。私は頷きながら「そ、そうだね!」とぎこちなく返事をした。
 それから他愛もない会話をしながら魔導院を後にする。会話をしたお陰かだいぶ浴衣姿のジャックに慣れてきた。それでも普段見られない浴衣姿のジャックを隙あらばちら見するけれど。

 魔導院を出て少し歩いたところで段々と人が増えてくる。着いた頃にはちょうど空も暗くなってきていて、街はお祭り一色に煌めいていた。




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