「だって好きだって言ってますよね、いつも」



あれから、なまえが僕の前に現れるたびに無理矢理用事を作ってはなまえから逃げるようになった。なまえはそれを察してか、最近ではトレイとキングと三人でいるときにしか声をかけなくなった。この間まで1日に何十回と会っていたのが、今では1日に数回しか会うことはなくなっていた。
この間まであんなに賑やかだったのに、と何故か寂しい気持ちになる。


「はーぁ…」
「何故ジャックが溜め息をつくんですか。溜め息つきたいのはこちらの方ですよ」
「えっ、なんで!?」
「女から逃げてる男か。度胸ないな」
「なっ、度胸あるし!」
「その状況で度胸あると言えるなんて…寝言は寝て言いなさい」
「……ふ、二人ともご機嫌ななめですか?」


尋問のような形で僕を見下す二人に恐怖心が芽生えた。ビクビクする僕をよそに二人は続ける。


「本当にあなたには呆れました。あんなにも愛してくれる人がいながら、曖昧な態度で接するなんてなまえが不憫です」
「あ、曖昧な態度って」
「なまえと話してるときの顔も、なまえの話をしてるときの顔も、今のその顔も。なまえのことを考えているからそういう顔になるんだろう?」
「うっ…」
「何故だかわかりますか?」
「この期に及んでまだわからないというなら、わかるまで言い続けるからな」
「わ、わかる、ような…」
「ジャック、あなたはいつまでなまえを待たせるつもりなんですか?」
「なまえはいつまでも待ってはくれないぞ」
「え?どういう…」


そこまで言うと、トレイは一枚のメモを僕に差し出してきた。首を傾げながらそれを受け取る。
そのメモには"噴水広場 15時"の文字が書かれていた。


「な、なにこれ?暗号、なわけないよね」
「そのまんまですよ。節穴ですかあなたの目は」
「うぅ…キング〜トレイが恐いよ〜」
「トレイはなまえのことを妹のように思っているからな。そうなるのも頷ける」
「え?!そうだったの!?初耳だし…」
「ジャック、時間が来たらその場所に行きなさい」
「えぇ…一体何が」
「わかりましたか?絶対ですよ」
「は、はい…」


トレイの威圧感に押され僕は頷くしかなかった。





授業も終わり、トレイに言われた通り、噴水広場へとやってきた。噴水広場には帰宅する生徒がちらほらといるだけで、特に変わった様子はない。
噴水広場に来る前、トレイに「これを被っておきなさい」と言われ帽子を被せられた。なんで帽子を被らなきゃいけないの、と聞きたかったがトレイのあの威圧感にそんなことを聞ける雰囲気ではなかった。
それよりも一体15時に何があるというのだろう。


「なまえちゃん!はぁ、よかった、来てくれてありがとう」
「はい。どうかしたんですか?」
「!なまえ…?」


噴水広場に座って待機してると、なまえの名前となまえの声が耳に飛び込んできた。慌てて声のした方向へ顔を向けると、そこには僕と同学年の男子となまえの姿があった。
僕は反射的に聞き耳をたてる。


「なまえちゃん、実は聞いて欲しいことがあるんだけど」
「はい」


恥じらう男子に僕はピンとくる。
これはもしかしてなまえに告白しようとしているのではないか。そうだとしても、なまえは僕のことが好きだから断るはず。
そう思ったが、さっき二人に話された会話を思い出す。その中でもキングから言われた一言が僕を不安にさせた。


『なまえはいつまでも待ってはくれないぞ』


確かに、キングの言う通りだ。
なまえがいつ僕を好きじゃなくなるかわからない。なまえにしかわからないんだから僕にわかるわけがない。
そういえば最近会う回数はめっきり減った気がする。いや、思えば僕がなまえを避け始めたのがきっかけだ。僕はなまえが僕に気を使っていたと勘違いしていたかもしれない。本当はトレイやキングと話したいからであって、僕に会いに来たのではないかもしれない。そこらへんはなまえしかわからないから何とも言えないけど、可能性は確かにあった。

もしかして、なまえはあの男子と付き合うのだろうか。
そう思うと胸がチクチクと痛み、モヤモヤ感がより一層増した。
あの男子となまえが付き合う…?

……イヤだ。


「俺、なまえちゃんのこと」
「なまえ!」
「!ジャック先輩?」


目を丸くさせて僕を見るなまえに、男子はふぅ、と溜め息をついた。
え?普通そこは邪魔されて驚くとこでしょ?


「トレイとキングの苦労もわかるな、これは」
「え、トレイとキング?えっ?!」
「そういうことだから。なまえちゃんも、いつもお疲れさん」
「はい。ありがとうございました!」
「は?え、なにこれどういう」


状況がよくわからない僕に男子が肩に手を置く。そしてニヤリと笑って口を開いた。


「いつまでも自分を誤魔化してると、なまえちゃんも愛想つかしちまうぞ」
「え!?」
「じゃあな」


そう言うと男子は颯爽と魔導院へと戻っていく。その場には僕となまえが残された。
僕はちらりとなまえを見ると、ちょうどなまえと目が合ってしまった。慌てて目を逸らすとなまえは僕の真正面に立ち、下から覗き込むように僕と目を合わせる。


「むっ…」
「ジャック先輩、なんで出てきてくれたんですか?」
「そ、それは、その」
「私があの人と付き合うことになったらどうしてましたか?」
「え?!つ、付き合うのはイヤだ!」
「なんでですか?」
「えぇ!?そ、の…」


トレイとキングと同じように尋問するなまえに、僕はたじたじしてしまう。
付き合ってたらなんて考えたくない。だって僕はなまえのこと。


「なまえが大事、だから…」
「大事…?それは好きって解釈してもいいですか?」
「………あのさ、なまえは僕のこと」
「好きに決まってるじゃないですか」
「へ…」
「だって好きだって言ってますよね、いつも」


ニコニコした顔をするなまえに、僕は顔に熱が集まる。それをなまえに見られないように、なまえの腕を引っ張り抱き締めた。


「すみません、騙すようなことして」
「…僕こそ、自分の気持ち誤魔化してたし」
「でもジャック先輩に嫌われたかと思ったときもあったんですよ」
「え?」
「手を振り払われたときです」
「……ごめんなさい」
「もういいです。これからは振り払わないでちゃんと握っててくださいね」
「うん。…大事にします」


噴水広場で抱き合う僕たちに、何故か拍手が沸き起こり、ハッと我に返り身体を離す。羞恥心でどうにかなりそうだったがなまえの幸せそうな顔を見て、まぁ今日くらい拍手されてもいいかな、なんて思う僕だった。




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