「一緒に帰りましょう」



「あ!ジャック先輩偶然ですね!」


その一声で誰だかすぐにわかった。
僕はじゃんけんで負けてしまい、購買でお菓子を買いに来たのだが、お菓子を選んでいる最中に冒頭に至る。声のした方向を向くと、すぐ隣になまえがいた。驚いて思わず後ずさってしまう。


「どうしたんですか?またじゃんけんに負けたんですか?」
「…またって言うなよなぁ…」
「ジャック先輩じゃんけん弱いですね!…そうだ、私ともじゃんけんしましょう!」
「えぇ、別にやらなくてもいいじゃん」
「やりましょう!もし私が負けたら、そのお菓子代払いますから!」
「なんでお菓子代も負けた人持ちって知ってるの?!」
「この間キング先輩から聞きましたから!」


トレイとキングは一体どれくらいのことをこの子に吹き込んだのだろうか。もしかして僕の幼少時代のことも全部なまえに話してたりして…いや、それだけは話していないと信じたい。
とにかく、じゃんけんでもし僕が勝てばお菓子代を払ってくれると言ってくれたのだから、この勝負引くわけにはいかない。
でも、じゃあ僕が負けたりしたら?


「ちょっと待って」
「はい?」
「もしなまえが勝ったらどうするの?」
「もしかして怖じ気づいたんですか?!」
「違うから!もしだよ、もしも!もし万が一僕が負けたらどうするのかなぁって」
「んー…そうですね」


うーん、と唸るなまえに、僕はまさか無理難題を押し付けるのではないかと、危惧する。
負けたら付き合ってほしい、と言うのかはたまたハグしてほしい、とかキ、キスしてほしいとか、言い出すかもしれない。もしそんなことを言われたら即断ろう。こんな形でそういうことになるのは僕にとってもなまえにとっても良いことではないし。
悶々する僕をよそに、なまえはそうだ、と言って顔をあげた。


「一緒に帰りましょう!」
「………え?」
「あ、駄目でしたか?」
「え、いや、そんなことはないんだけど」


正直そう来るとは思わなかった僕は呆然とする。そしてなまえの「行きますよ」という掛け声に慌てて持っていたお菓子を棚に戻した。


「「じゃんけん」」


ぽん、と目の前に出されたのは、パー、とグーだった。パーは僕で、グーはなまえ。ということはなまえが負けて僕が勝ったということだ。
なまえは「あー負けちゃった」と一見残念そうにしていたけれど、何となく、何となくだけど、僕がパーを出すって、なまえに見破られていたような気がする。釈然としない僕に、なまえは僕の持っていたお菓子をさっと持ちいつの間にか会計を済ませてしまっていた。


「はい、どうぞ!ジャック先輩!おめでとうございます!」
「あぁ、うん、ありがとう…」
「どうかしたんですか?勝ったのに嬉しくなさそうですね」
「んー…まぁ嬉しい、けどさぁ」
「そうですか?あ、じゃあ私行きますね!ジャック先輩にも会えたし!」
「え、あ、ちょっ」
「それじゃ、また明日会いに行きます!」


そう言って踵を返すなまえに、僕は無意識に腕を伸ばしなまえの手を掴んでいた。


「え?」
「あ…」


目を丸くさせるなまえに、僕は慌てて手を離す。どうして手を掴んでしまったのだろう。


「…ジャック先輩?」
「……あ、あのさぁ」
「はい?」
「い、……一緒に帰るくらいなら、じゃんけんしなくても、いいかなぁ、なんて」
「え!」


そう言うとなまえは顔を明るくさせて、やったぁ!ありがとうございます!と答えた。なんでこんなことを口走ったのかは僕にもわからないが、なまえのその顔を見て別に悪い気はしないので良しとしよう。




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