「好きです大好きです周りなんて見えません!」



いつからだろう。
あの子が僕に付きまとうようになったのは。


「ジャック先輩!」
「…また君かー」
「やだ先輩ったらいつもみたいにハニーって呼んでくださいよー」
「いやいや、いつもハニーなんて呼んでないから」
「おや、なまえではないですか。いつもご苦労様です」
「おはようございますトレイ先輩!いつもジャック先輩がお世話になってます」
「いやいやいや、何言ってるの。むしろ逆だよねそれ、なまえがいつもお世話になってるよね」
「そうでした!ジャック先輩にお世話になってるんですよね私!」
「え?いや、僕お世話してないんだけど…何顔にやけてるの?話聞いてる?」


なまえとのやりとりを周りは微笑ましそうに見ている。トレイも、もう慣れたのかフフフ、と微笑みながらなまえと話していた。



なまえはこの間入学してきたばかりで、僕と知り合ったのもつい最近だ。なまえとは、部活帰りにトレイとキングとエントランスで談笑していたときに、なまえが前を見てなかったのか僕とぶつかってしまったのが切っ掛け。
その時僕は何ともなかったけど(身体大きいしそれなりに鍛えてあるから)、なまえは走ってたからか、勢い良くぶつかって勢い良く後頭部を強打した。あの時は凄くびっくりしたし、人間の頭ってあんな音しても割れないんだな、と無駄に感動した覚えがある。シマシマですか、と呟いたトレイにもある意味感動した。
倒れたまま動かないなまえに、慌てて大丈夫かと駆け寄った瞬間、カッと目が開き勢い良く身体を起こしたお陰で、今度は僕のおでことなまえのおでこがヒットしてしまった。


『いっ…!』
『いたた…ハッ!すみません、大丈夫です……か……』
『ぼ、僕は大丈夫だけど、君こそ頭大丈夫…?』
『………』
『?おーい、聞いてる?』
『……す』
『す?』
『好きです付き合って下さい!』
『…はぁ?!』


とまぁ、少女漫画のような出会いを果たしたのだった。本当ベタすぎる。トレイもキングも、なまえが告白したあと、「ベタだな」「ベタベタすぎますね」とコソコソ話していたのも頷ける。
当の本人は顔を真っ赤にして僕を見つめていた。それを見たときはキュンとしたけれどすぐに我に返り、とにかく頭も打ったんだし医療室へと案内してあげた。その時もずっと僕を見つめていてすごく気まずかった。
医療室に送ってあげたあと、「あの子を部屋まで送ったほうがいいだろ」とキングが言い出し、トレイも「そうですね、ジャックが怪我させたようなものですし。私たちは関係ありませんから、どうぞ二人でごゆっくり」と乗っかりだし、反論しようとしたら「おおお、お願いします!」と遮られてしまった。こうなれば後戻りなんてできない。仕方なく部屋まで送ることになったのだが、なまえとの会話はもう凄まじいマシンガントークだった。


『私なまえって言います!』
『え、あー…僕はジャック。よろしくね』
『はい!よろしくお願いします!えと、ジャック、先輩でいいんですよね?こんなカッコいい人私の学年に居ませんでしたし』
『カッコいいだなんて照れるなぁ。うん、君の一個上だよー』
『あの!ジャック先輩は今好きな人いるんですか!?』
『いきなり!?い、いや、いないけど』
『良かった、私、ジャック先輩に一目惚れしました!』
『え、えー…と、あ、ありがとう?』
『はい!ですから付き合って下さい!』
『えぇ?!つ、付き合うって…』
『どこかに付き合うって意味じゃありませんよ?彼氏彼女の意味ですよ!』
『ちょ、あの、まって。落ち着こう、ね?』
『…駄目、ですか?』
『え、えぇー…あのね、駄目とかじゃなくって』
『そういうことですか、わかりました。ジャック先輩、私を知ってください!』
『………ハイ(なんかマシンガントークだけどところどころ鋭いなぁ…)』
『これからよろしくお願いしますね!』
『…うん、よろしくね』


あの会話をした次の日から、なまえは僕を探しては周りを気にすることなく、何度も好きだと言ってくるようになった。もちろんいきなり好きだと言ってくるわけではない。他にもたわいない会話はしているし、ただ会話をしながらところどころ告白をしてくるもんだから困ったものだ。
最初こそ周りは驚いて人目を引き付けていたけれど、毎日毎日同じような光景を見ていれば誰だって慣れてくる。最近では付き合ってるって周りに誤解されているらしい。


「…ねぇ、なまえ」
「はい!ジャック先輩!」
「なまえは周りのこと気にならないの?」
「周り、ですか?全く気になりません!」
「なんで?」
「ジャック先輩だけしか見てないですから!」
「…………」
「フフフ、ジャックはとても愛されてますね」
「もちろんです!」


そう断言しながらニコニコするなまえを見て、僕は溜め息をつくしかなかった。




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